第9回後編:「みんなでわいわい」「それぞれもくもく」・・・意識をきりかえていろいろな自主ゼミをやってみよう

f:id:Kfpause:20151223180826p:plain

自主ゼミをやってみよう

第9回【前編】では、「みんなでわいわい」議論する時間と、「それぞれもくもく」各自の課題に向き合って自学する時間とをきちんと分けた行程表(ロードマップ)をつくってから自主ゼミを行うことをおすすめした。みんなで集まって行う自主ゼミでは、ついついおしゃべりに流れがちであるが、きちんと時間を区切ったり、一人で課題に向き合う時間をとるようにすると、だらだらとしないで済むからである。第9回【後編】では、様々な自主ゼミのロードマップ例をご紹介しよう。これらには、私自身が学部生やロー生の時に試したり、現在指導している学生から見聞したものが含まれている。面白そうだと思うものがあれば、ぜひ冬休みや定期試験前の学習として試していただきたい。

いろいろな自主ゼミ

一口に自主ゼミといっても、様々な目的で行われている。どんな目的で、どのようなタイミングで行われているかに着目して分類し、おすすめのロードマップと、運用時の注意点を述べることにしよう。

タイプ1 試験対策ゼミ~定期試験などの過去問を解こう

最も多く行われていると思われるタイプが、試験対策のために過去問を解くゼミである。定期試験の前に、講義担当の先生が昨年度まで出していた問題を、みんなで解いて、お互いにコメントしてみよう。これは、長い文章を書かなければならない記述式試験が出ることがわかっているのであれば、ぜひやっていただきたい自主ゼミである。

事前準備

試験対策ゼミでは、当然のことながら過去問を自ら解いてみなければ意味がない。当たり前のことでわざわざ注意すべきことではないと思うかもしれないが、実際にはバイトやサークル、そして他の授業の課題などが忙しく、問題を解くための時間が確保できないこともある。ゼミの時間だけでなくその事前準備のための時間もかかるということをきちんと肝に銘じておこう。
最初は書き方がわからないため、本当の時間通り*1にやろうとすると、まともな答案が書けない、ということがある。そこで、このゼミをやる場合には、「正規の時間を計って解き、時間がきたら区切り線を入れて続きを書き、答案の最後には実際にかかった時間をメモしておく」という手順であらかじめ参加者全員が解いてきてから、問題と答案を検討する自主ゼミを始めるとよい。
また、互いの答案を見てみるといろいろなことに気がつくので、参加者それぞれが自分の答案を人数分コピーしてくることをおすすめする。

おすすめロードマップ

参加者全員が問題を解き、そして答案を人数分コピーしてきたことを前提にした、試験対策ゼミのおすすめロードマップは次の通りである。

  1. はじめに(5分):参加者全員の答案を交換し、終了時間を設定する
  2. もくもく(15分):自分を含めた全員の答案と問題文をもう一度読んで、疑問点や工夫すべき点など、【内なる声】を書き出す
  3. わいわい(20分):全員で、問題の検討を行う。疑問点をお互いに質問したり、上手く書けた人にコツを聞く
  4. 休憩(5分):いったん休憩する。トイレに行ったり、おやつなどを食べるならばこのタイミング、とあらかじめ決めておく
  5. わいわい(15分):洗い出した問題点をもとに、どうすれば解けるようになるのかをみんなで考える
  6. もくもく(10分):議論を踏まえて答案構成メモ*2を書き直してみたり、議論をしているうちに確認したくなったことを書き留めておく
  7. おわりに(5分):自主ゼミの進め方それ自体の反省点を確認して、次回の予定を決める
ポイント

このゼミのポイントは、「答案をみんなで検討し始める前に互いの答案をきちんと読む」ということである。この過程をすっ飛ばしてしまうと、きちんと解けた人は問題点を理解して議論を始めることができるが、そうでもない人は、議論についていくことで精一杯になってしまうからである。
また、「わいわい」モードの時間も二つに区切った方がよい。議論の時間が20分を超えると、話題が拡散してどうしてもダラダラした雰囲気になりやすい。そこで、「わいわい」一回目のテーマは問題点の洗い出し、「わいわい」二回目のテーマは改善方策の模索という形にしてみた。これは過去問の内容などによって適宜アレンジしていただきたい。
そして、盛り上がった後は、各自が自分のノートに向き合って、問題点や気がついた点を書き出すことを忘れないようにしておこう。

タイプ2 持ち寄り「自学」ゼミ~もくもく「自学」をみんなでやろう

みんなで集まろうとしたら、思ったよりも人数が揃わない。そんなときには、各自の「自学」を持ち寄って、同じ場所で取り組むタイプのゼミをやってみよう。これを「自主ゼミ」と呼ぶべきかどうかについてはあまり自信がないけれども、どんな風に自学をやっているのかを、お互いに見たり学んだりしながら行うゼミのことである。

事前準備

それぞれが自分が取りかからないといけない「自学」用の教材を持ってこよう。講義のまとめや予復習を行うのであれば教科書やノートを、択一式試験の問題集を解くのであれば、問題集と六法(書き込みしてもよいもの)を持ってこよう。

おすすめロードマップ
  1. はじめに(5分):各自の目標と目的を確認し、もしメンバーに聞いてみたいことがあれば前もって言っておく
  2. もくもく(25分):各自の「自学」課題にとりかかる
  3. 休憩(10分):いったん休憩する。お互いの進み具合などについて軽く声をかけあったりする
  4. もくもく(25分):さらに各自の「自学」課題にとりかかる
  5. わいわい(15分):どこまで進んだのかをお互いに確認し、疑問や相談事があれば質問する
  6. おわりに(5分):自主ゼミの進め方それ自体の反省点を確認して、次回の予定を決める
ポイント

このタイプは、一人でもできることをみんなで集まっている機会に行うものである。そこで、「やらなきゃいけないとわかっているんだけども、どうも取りかかりにくい課題」や、「自分のやり方で良いのか自信がない課題」などを持ち寄るといい。
逆に、自分が最近うまくいっているやり方を共有することもおすすめである。他のメンバーに説明したり、試しているうちに、自分の頭の中でもより良く整理できたり、もっと良いやり方がみつかるかもしれない。

タイプ3 「私のオススメ」報告ゼミ~お互いに「面白かった講義」の報告をしよう

最後に、すこし変わった自主ゼミをご紹介しよう。私が法学部3年生から4年生に進級する春休みに、自主ゼミ仲間と一緒に「自主ゼミ合宿」を行った。それは、「興味のある事柄や、有益だった講義やゼミについての情報を共有するために報告する」というものだった。この話を自分が指導している千葉大学政経学部の学生にしてみたところ、彼女たちも、初年度教育用の演習(基礎ゼミ)の情報を共有するための自主ゼミを開いたというので、とても驚いた。なぜそのようなことを始めたのかを聞いてみると、同じ法政経学部1年生であるにも関わらず、自分達が初めて受けたゼミの内容が大きく異なっていたからだという。たしかに言われてみれば、基礎ゼミの内容は各担当教員ごとに大きく異なり、それぞれの教員が独自に「大学生活で必要なこと」を教えることになっている。「横田先生の基礎ゼミの内容を他の人にも教えたいし、友人の受けた他の先生の基礎ゼミの内容も聞いてみたくて、お互いに報告し合うゼミを企画した」というのだ。
その内容を教えてもらったところ、専門が違う先生による基礎ゼミの内容は、私自身にとっても非常に面白く、勉強になるものだった。基礎ゼミに限らず、大学の講義やゼミは、それぞれとても異なった内容や手法で行われている。その全てを履修することはとうていできないので、自主ゼミ仲間の間で情報共有をしたり、発表の練習をしてみるのはどうだろうか。

事前準備

まず、報告したい人を募集しよう。報告者は、A4で2枚程度のレジュメを作成しておくと、スムーズに報告できる。講義の内容を紹介するのなら、講義のシラバスを引用したり、参考文献などを載せておこう。

おすすめロードマップ
  1. はじめに(5分):報告者の報告順を確認し、レジュメを配布する
  2. わいわい(15分):報告者1が報告する
  3. もくもく(5分):報告者1に対する質問を紙に書き出す
  4. わいわい(10分):報告者1に対する質疑応答をする。なお、このとき「良い質問」の練習*3ができるようなら意識する
  5. 休憩(10分):いったん休憩する。この間に次の報告者は準備する
  6. 以下、2~5をすべての報告者が終わるまで繰り返す
  7. おわりに(15分):自主ゼミの進め方それ自体の反省点を確認し、報告が上手かった人にそのコツを教えてもらう
ポイント

賢明な読者の皆さんはお気づきであると思うが、これは少人数ゼミでの報告や質疑応答の練習になっている*4。もし、少人数ゼミでの報告がうまくできなかったり、発言しようとすると緊張してしまったり、指導教員からの質問が怖いという人は、ぜひ、やってみよう。手始めに、「あなたが面白かったと思う講義の内容紹介ゼミ」や、「面白い本をおすすめしあうゼミ」をしてみてはどうだろうか。

自主ゼミ仲間とのつきあい方

このように、「自主ゼミ」といっても様々なやり方や内容が考えられる。ぜひ、良い自主ゼミ仲間を見つけて、とりあえず試してみよう。各ロードマップの「おわりに」に付した「自主ゼミの進め方それ自体を反省する」という項目は、自主ゼミ仲間でお互いの能力を伸ばしていくためのコツである。
同じ進路を目指している人同士だと、ときに「ライバル」関係になって、ぴりぴりしたムードになってしまうこともあるという。しかし、「お互いがお互いを伸ばしていく」のもまた、良きライバルである。私自身は、学部時代にどうやって勉強したらよいかわからなかったところ、自主ゼミ仲間に教えられ、支えられ、そして意地を張ったり自慢したりするために自学した結果、学習習慣が身について、法科大学院に進学することができた。ぜひ、足を引っ張り合う相手ではなく、良きライバルを見つけて頑張っていただきたい。

次回予告

法学学習を一通り終わった後に進学する法科大学院ロースクール)。そこで私が見たものは、法学部の頃には想像もしていなかった、実務系科目と理論系科目の交錯だった。次回は、ロースクール生として学んでいくうちに気がついた、法学学習の「縦糸と横糸」についてお話しする。

第9回【後編】まとめ

  1. 「はじめに・わいわい・もくもく・休憩・おわりに」を組み合わせてロードマップを作ってみよう
  2. 試験対策だけでなく、「自学」の持ち寄りや「講義紹介」の自主ゼミも楽しいよ
  3. 足の引っ張り合いではなく、お互いを伸ばしていく良きライバルを見つけよう

*1:私自身が担当する「行政法Ⅰ」講義の期末試験(前半は正誤問題、後半は長文記述式問題)の時間制限は80分であり、最後まで書き切れている答案は本当に少ない。

*2:答案構成メモとは、答案を解答用紙に書く前に、メモ的に書き出しておくアウトラインのことである。この手順を踏むことの重要性については、第4回【後編】を参照。

*3:良い質問については、第7回【後編】を参照。

*4:第7回【前編】・【後編】をアップした後に、ある学生から「少人数ゼミがそんなに面白いところとは知らず、履修登録をしなかったので残念だ」という感想をいただいた。今回紹介した「自主ゼミ」は率直に意見交換のできる友人が1、2人いれば今からでもできるので、ぜひこの冬休みや春休み期間に試してみていただきたい。

Copyright © 2015 KOUBUNDOU Publishers Inc.All Rights Reserved.