特別対談:〈記録〉でつなぎ、〈法学〉を再定義する――ぱうぜ先生と岡本正弁護士、著書を/著書から語る【前編】

 

――ぱうゼミ(千葉大学・横田ゼミ)にもゲストとして登場したり、本Web連載「タイムリープカフェ」を書籍化した『カフェパウゼで法学を』でも新たな弁護士像を体現する人物としてクローズアップされている岡本正弁護士(銀座パートナーズ法律事務所)。ぱうぜ先生の新刊『コロナ危機と立法・行政』の刊行を記念しての特別編となる今回は、「災害復興法学」を確立し、最近も一般向け書籍『被災したあなたを助けるお金とくらしの話[増補版]』(弘文堂・2021年)を上梓し防災教育にも注力する岡本弁護士を迎え、お互いの近著を肴に、本作りの苦労話からこれからの法学や法律家の課題・役割、さらには大学オンライン化の行く末まで、大いに語ってもらった。(弘文堂編集部)

 

はじめに

ぱうぜ 今日は懐かしの(※コロナ禍とドイツでの在外研究のため)弘文堂会議室で、弁護士の岡本正先生をお迎えしています。今日は、『カフェパウゼで法学を』が先日めでたく2回目の増刷がかかって、さらに、この『カフェパウゼで法学を』の最終章に登場していただいた岡本正先生もまた弘文堂でご著書『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』を出されて、それも増補版が出ているということで、これらの本についてお互いに紹介したり質問したりしつつ、「タイムリープカフェ」特別編という形でお届けしたいと思っています。岡本先生、よろしくお願いします。

 まず、私の『カフェパウゼで法学を』が2018年に出ていますが、刊行からそろそろ4年経つのでそろそろ改訂しようという話も出ています。そして次の、岡本先生の『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』の初版が2020年に出て、すぐあとの2021年末には増補版が出ました。で、それを追いかけるような形で今年(2022年)の2月に、私の『コロナ危機と立法・行政』という本が出ました。これは、ドイツでの在外研究期間(2019年10月から2年間)がほとんどコロナ危機下だったということを奇貨として書いた本ですね。以上3冊の内容を踏まえて話をしていきたいと思っています。

 

1 『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』はなぜ生まれたか

ぱうぜ これ(『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』)、増補版ということなんですが、すごいスピードで増補版を出されましたね。これ、趣旨としてはどういう感じだったんでしょうか。ぜひ、本の趣旨と、増補版が出た経緯を教えてください。

岡本 そもそも『カフェパウゼで法学を』が出てもう4年経ちますが、大変恐縮ながら私も、同書のもとになったブログ(本連載「タイムリープカフェ」)時代から登場させていただきました。その時は、法律を学んで例えば実務家になったりしても、研究をしたりとか教育に携わったりとか色々なルートがあるよという一例として、私のやってきたことをご紹介いただいたわけですが、私自身も自分を見直すきっかけになって良かったと思っています。

 簡単に申し上げますと、私は2003年から弁護士をやっているのですが、法律家としてはやや珍しいキャリアで、2009年から2011年の2年間、内閣府に国家公務員として出向した経験があり、行政改革・規制改革・その他の国家戦略の策定に参画するという経験をさせていただきました。

 その出向中の2011年3月11日に東日本大震災がありました。建物や街が破壊され、多くの方が亡くなりました。それに加えて「どうやってこの先を生きていけばいいのか」「ローン支払いができず途方に暮れている」「どうやっても自宅の再建や事業再生にお金が足りない」という声が溢れていることに気が付きました。それをきっかけに災害時の制度や法律について、法律家ももっと学んで、平時からそれらを学ぶ防災教育に関わらなければならない、あるいは現状の法制度に満足することなく、もっと公共政策に法律家が貢献していけるのではないか、ということを強く思ったわけです。

 それで、そういう経験をもとに大学で授業をやってみれば、防災教育や公共政策へ関与する新しい法律家のあり方や、新しい切り口の防災教育・法学教育の世界の扉が開けるのではないかと思いまして。思い立ったところで、当時は何の実績もなくて論文ひとつ書いたこともないまだまだ若手と呼ばれる弁護士だったんですが、恩師の示唆もあって、興味を持ってくださった慶應義塾大学の北居功教授にはじめてお目にかかり、開口一番、「災害と法学」の講座を作らせてほしい、と迫った(笑)わけです。

ぱうぜ ここがすごいんですよね〜。

岡本 これもミラクルのひとつでしたね。

ぱうぜ 岡本先生の実務における実績と、新しい法学のニーズというものをどうにかして学生に伝えたいんだという熱意を、慶應義塾大学さんが汲み取ってくださったわけですね。

岡本 おそらく研究者の先生方も、東日本大震災を目の当たりにして、自分たちができることは少ないと思われていたのではないかと思うんです。そこで、私の『災害復興法学』の授業をつくりたいという提案がうまく受け入れられたのかなと。

ぱうぜ そうですね。で、岡本先生の素晴らしいのはそれをちゃんと本にされているところで、授業をまとめた本『災害復興法学』慶應義塾大学出版会)が2014年に出てるんですよね。なお、その後2018年に続編『災害復興法学Ⅱ』(同)も出ています。

岡本 慶應義塾大学の授業名や本のタイトルにもなっていますが、自ら「災害復興法学」と名付けて研究と実務の両輪みたいなことをやっている中で、最終的に『カフェパウゼで法学を』でも触れられているように、論文博士、それも法学の博士号をとることができました。何の博士号をとるかは法学以外にもいろいろありえたと思いますが、法学という形でとった方が、その後にこの分野を開拓したいと考える人たちにも目標になるだろうと。それが2017年のことでした。

 そこである意味ひと段落、東日本大震災からの想いが完結したような感じもありますが、実は僕としては「これでようやく土壌ができた」という思いだったんですね。一番やりたかったのは、2011年の東日本大震災の直後には私ができなかった、〈被災者の方々にもっとうまく支援の知識を伝えること〉だったんです。被災する前に、災害後に役立つ法律の知識の大事さというものを、なぜ公教育で教えられなかったんだろうか、と。被災してしまう前に、そういう法律があるんだよということを3つでも4つでも覚えておいてほしいという、まさに「防災教育」をやりたかったわけです。

 このように、法律を事前に知るという防災教育をしたいと思いながら、災害復興法学の授業と研究を続け、その講義をまとめた『災害復興法学』を世に送りだしたときに、ちょうどぱうぜ先生の「タイムリープカフェ」でも私のキャリアを取り上げてくださったわけです。

ぱうぜ 良いタイミングだったわけですね。

岡本 ぱうぜ先生との出会いで、弘文堂さんとも縁ができて、2020年に『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』の初版を出すことができました。おかげさまで多くの方の手にわたり、慶應義塾大学以外でも教科書として採用できたりしまして、いよいよ増刷しましょうかという話になりました。タイミングとしては、まだまだ新型コロナウイルス感染症のまん延が続き、政府もこれまでの災害対応の経験を生かした家計や企業の支援策をいくつも打ち出していた時期でした。また、東日本大震災から10年の間の課題が、ある程度法改正に反映されて、私自身が取り組んできたさまざまな法改正提言も、その一部が実現していた時期でもありました。そこで、単なる増刷ではなく、これらの社会情勢を反映する「増補版」にしようという企画になりました。

 コロナ禍に関しても過去の災害での対応に関する知恵が利用されていた部分が多かったということを、コロナが収束したあとでも、ひとつの読み物として参照してもらえるよう意識した「コラム」を加筆したことが、「増補版」の最大の特徴になります。

 

2 「実用」へのこだわりーー「小学生でも読める法律書」をめざして

岡本 弁護士の立場で法律をテーマにした本を書くとなると、どうしても「〇〇法の解説書」になってしまいがちです。また、弁護士という著者の肩書きから、書店の法律書のコーナーに並んでしまいがちです。『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』は、あくまで一般向けの「防災の本」として作りたいという思いがありました。書店でも「暮らし」とか「実用書」のコーナーに並んでほしいと。

ぱうぜ 初版の時にわざわざドイツまで送っていただいて。手に取ってすぐにこれは「防災本」だと思いましたよ。被災する前にも読んでおくべきだし、防災バッグの中に入れておいてもし被災したときには避難所とか避難先で読む、という想定で、中身としても物理的な本の形としてもしっかりした本の作りになっているのが、非常に心強い本だなぁと思いました。

岡本 ありがとうございます。被災前と被災後の両方で読んでもらいたい本なんです。もちろん、できればこの本が使われるような状況にはなってほしくありませんが。インデックスとして章ごとに色を変えたりするなど、実用性も重視しました。また、「防災バッグに1冊」というキャッチフレーズで防災グッズとして用意してほしいとも願っています。そこで、本の表紙は丈夫かつ軽いものを厳選し、コンパクトなハンティサイズという点もこだわったつもりです。

ぱうぜ しかもこれ、法律家は見落としがちなんですが、適切にルビが振ってあるんですよね。初版を見た時に「ああそうか、こうしなきゃいけないんだな」と思いましたね。あと、適切なQRコードの提示。例えば、増補版の26〜27ページで「保険協会への契約照会窓口を活用する」という項目がありますが、これ、実際に困っている時はもうバタバタしているわけですから、手元にはPCなんかはなくてスマホしかないかもしれない。そんな時にとりあえずQRコードを読み込めば、関係するウェブサイトのトップページにすぐアクセスできると。あと、重要なフレーズに色線がついていているのも親切。それも、「保険証書をなくしても大丈夫ですよ」とか、とにかく安心させる言葉になっているところがいいですよね。すごく配慮されてるなぁと思います。普段本を読まない人でも、これ1冊あれば被災時に何ができるのかということがわかるようになっている。

岡本 法律があるからその解説を書く、というのではなくて、これまで多くの弁護士が培ってきた被災者支援の経験、活動も踏まえて「被災者はまず何が困るのか」「どういう順番で物事を解決していけばよいのか」という時系列を意識して書きました。「はじめの一歩」(Part1)は、お金やローンの問題が被災者を襲う現実について気付きを得られるような序章となっています。そのあと、パニックにならないために、「貴重品がなくなった」(Part2)場合や「支払いができない」(Part3)場合の解決策についてノウハウを書いています。その後は、実は役立つ法律がたくさんある「お金の支援」(Part4)へと続きます。法律だけではなく、民間企業や弁護士会などの公的団体による支援など、災害がおこったときに必ず知っていてほしい知識を盛り込んでいます。国の制度や民間の支援なども一緒くたにはなっているんですが、ただ本当に困っている方にとっては、根拠が法律かどうか、事実上のものかどうかは関係なく、パッと見てわかりやすい整理が重要だと思いました。また、平時にこの本を読む場合にも、「自分自身が何に困ることになるのか」を想像しやすいと思いました。

ぱうぜ そうですね。この本は「時系列」と「分野ごと」というのがうまく組み合わさってるなぁと思いますね。私も岡本先生にいろいろと教えていただきながら災害法制のことを少し勉強したりもしたんですが、支援を受けるためには、発災時や発災後の特定の段階でしておかないといけないことがいろいろあるわけです。でも、「自宅が被災したら、まずは罹災証明書を申請しよう。そのときには忘れずに、壊れてしまった自宅の様子を写真撮影しておこう」というようなことって、何度か経験しないとなかなかわからないんですよね。とはいえ、大災害を何度も経験することなんてそうそうない。だから、そこで、「少なくともこの本が書かれた時にはこういう支援がありました」ということがわかれば、「ひょっとしたら今度の災害の時にもあるかもしれない」となる。この点、増補版では、「コロナという、今まであまり災害だと思われていなかったようなものに対しても、これだけのことを日本社会はしたんだ」ということをコラムという形で「記録」しているのが、非常に面白いなと思いました(これについては【後編】4でがっつり語ります)。

岡本 ありがとうございます。確かに『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』が、法律解説書のようなものだったら、法改正があったり、改訂したりすれば、旧版はもうお役御免で使えないというふうに思われがちです。でも、おっしゃるようにコラムは「記録」を意識したので、いずれ旧版になってもその話が残っていること自体に価値があるんだろうなと思いました。今回、コロナと災害がリンクする部分をテーマに7つのコラムを加筆しました。コロナが収束したとしても、「当時は、コロナ禍で経済支援を必要とする国民や事業者に対して、わが国がつちかってきた災害に関する知恵が生かされていたんだ」ということを、お話としていつまでも読んでいただけることに意味があるのではないかと思っています

ぱうぜ 本当に徹頭徹尾、実用書というか、「いま」本当に困っている人を支えるために「この時点の」岡本先生が何ができるか、ということを考え尽くされた本ですね。

岡本 「実用書」として相応しい本であるために苦労したことといえば、文字数です。『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』は30の話があるんですけど1話あたり4ページしかなくて、しかもその4ページの半分以上がイラストとまとめの言葉です。文字数にして1話あたり1000字あるかないかぐらいです。そこに、必要最低限かつ十分な支援情報を盛り込む必要があるので、一文字一文字の選択に神経を使ったつもりでいます。

ぱうぜ 私の場合は、『カフェパウゼで法学を』を出した時、表紙の見た目に反して中身はぎっしりで結構文字数が多くて大変…というようなご批判もそれなりにいただいたのですが(笑)、これくらい行間があれば線を引きながら読むことも簡単ですし。

岡本 本当はもっと書きたいこととか、「ただし例外は…」みたいな部分はすごくたくさんあったんです。それでも、最低限知っておくべきことということで、とにかく必要な情報のみを記述するよう削ぎ落として削ぎ落として、本当に一番大事なところだけに厳選しました。我ながら、よくここまで短く説明してしまったなと(笑)。

ぱうぜ だから、実際に支援に当たられる専門職の方からしたら物足りないところもあるかもしれませんが、まずは被災者の方々に「初動」をしてもらう、ないし声を上げてもらうところまでを補助するというイメージですよね。

岡本 はい。子供たちにも読んでもらえるよう意識しました。読者は、小学校高学年以上ぐらいからを想定しています。文章もやさしい語り口を心がけましたし、ぱうぜ先生もご評価くださったように、専門用語にはルビも振ってあります。中学生むけのワークショップをやったときも、全然問題なく資料として使えました。子供たちにとっても、災害で「お金」に困るというのは目から鱗ですが、気が付けば当たり前のこととわかってもらえます。そこに「罹災証明」というのが必要なんだとか、こんな支援金があるんだとか、被災はできればしたくないけれども、知ってたら必ず役に立つ知恵が手に入るということで、興味を持ってくれます。

 

3 法学の「拡張」へ:法律は「使える」し、「変えられる」

岡本 『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』では、「災害ADR」について解説しているところがあります。たとえば、多くの方は法律問題でトラブルになってしまったら、裁判所で争うしか解決策がないと考えているようです。しかし、実際には弁護士会が運営する「災害ADR」を利用して、話し合いで解決したケースもある。これも結構目から鱗の情報なようでした。書いてみたら意外と、「罹災証明」とか「被災者生活再建支援金」よりも反響があったんです。紛争解決の仕組みが裁判以外にもあるんだ、と。

ぱうぜ おそらく罹災証明が必要だっていうのは、詳しいことはわからなくても割と周知されてきていると思うんですが、言われてみれば災害ADRって、どういう時に使うのかも含めて情報があまりないんですよね。私自身は被災経験がないので、「そうか賃貸借契約の修繕義務とか、工作物責任ってこういうときに紛争になるんだ」と改めて思いました。非常に身近なところで法的紛争に巻き込まれてしまう。そこに、災害ADRが一つの解決法として出てくるというのは、言われてみれば…という感じです。

岡本 一般向けにADRを解説した本すら、あるかどうかのレベルですよね。

ぱうぜ ADRってどうしても専門家向けの本が多くて。裁判以外の…ということで、どうしてもちょっと「横道」みたいに思われてしまうかもしれないんですが、実際には今回の本で紹介されている「災害ADR」など大規模災害の際や、ほかにも交通事故紛争や住宅紛争など、様々な紛争解決実務の現場ですごくよく使われたし、それを受けてADR自体もオンラインで実施するなど、いろいろと実務上の工夫もされているところですね。

岡本 防災教育や各種セミナー講師などもさせていただくのですが、ADRという仕組み自体についてはやっぱり知らなかったという声が多いですね。ただ一度聞いて単語だけでも知識として知っておけば、いざという時に頭の中に残っていますから、防災教育はやはり有益だと思います。

ぱうぜ やっぱり、耳に残っているかそうでないかでは全然違いますよね。

 ちょっと脇に逸れますけど、オンラインADRのことをいまODRって言ったりするじゃないですか?オンラインのADRのことだっていうのを知らないと、こういう省略形って耳にも残らない。そういうこともあるのでやっぱり、知ってるつもりになってる言葉でもちゃんと一回読んでおくっていうのは、すごく大事だなぁと思います。

岡本 被災して初めて、やれ「罹災証明書」だ「自然災害債務整理ガイドライン」だというニュースや広報などを見聞きしても、なかなか自分事として情報が来たことに気が付けないと思います。一言でも、災害前の段階から知識として持っておくことが大事だと思いますので、災害時の様々な制度の知識は、義務教育段階など、子どもたちへの法教育の一環としても実施してほしいと願っています。

ぱうぜ 生き抜くための法教育、というわけですね。

岡本 裁判とか刑罰とかのイメージじゃなくて、実は法律って役に立つんですよ、というような。そんなメッセージも、書きながら気づいたところです。

ぱうぜ 法学とか法律というものを拡張していくというか、再定義していく試みでもあるということですね。実際、災害復興法学という分野を立てること自体も一つの法学の拡張ですが、実は最近そういう議論が他の文脈でもありまして、たとえば、今後脳と機械がつながった場合を法学の観点から考えようというような研究も進んでいたりします。そういう意味で、災害復興法学というのは一般の法律に対するイメージを変える大きなきっかけになる分野だと思います。

 よく法教育をやっておられる先生方もおっしゃいますが、やっぱり世間の法学のイメージってどうしても刑事ドラマとかそういうイメージが強くて、国家警察権との関係であるとか犯罪への対処であるとか、あるいは離婚とか。もちろんそういう面も大事なんですが、社会を制御したり整えていくために作られている制度の道具として法を使っているんだという面と、新しい課題が出てきた時にどのように法を使ったり直したりしていくのかという面、その両方が求められるわけです。

 災害復興法学はおそらく、その両方をカバーしている各論分野で、しかも各論なんだけれども、災害時という時点で見るともう完全に総論、すべてをカバーしている分野なんですよね。そういう意味でこの本は、大災害にあった時の社会の英知を積み重ねるための一つの道具として法が使われたりしたことや、法だけじゃなくて民間支援とかも含めた社会の努力を、「使える」形に整理し直した本だといえると思いますね。

岡本 ありがとうございます。まさに、千葉大学のぱうゼミ(ぱうぜ=横田担当の「行政法演習2」のネット上における愛称)でお話をさせていただいた時も、意外に法律というのは、決して変えられないものではなくて変えられるんだ、むしろ立法事実があればちゃんと改正をし続けなきゃいけないものなんだ、と話しました。特に災害というのは毎回予測不能のことが起きるので、実は法律もその都度変えていかなければいけないし、そういう宿命なんだということは、お伝えできたように思います。

 法学を学ぶ人たちは、法学というのはすでにある法律を解釈するものなんだと思っていることが多いと思います。法解釈学も大事ですが、必ずしもそこだけが法学ではないんです。そのことは機会をとらえてもっと多くの方へ伝えられたらいいなあと常々思っています。もちろん、『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』もその一つの材料にしていきたいです。

 

【後編はこちらです】

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