第9回後編:「みんなでわいわい」「それぞれもくもく」・・・意識をきりかえていろいろな自主ゼミをやってみよう

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自主ゼミをやってみよう

第9回【前編】では、「みんなでわいわい」議論する時間と、「それぞれもくもく」各自の課題に向き合って自学する時間とをきちんと分けた行程表(ロードマップ)をつくってから自主ゼミを行うことをおすすめした。みんなで集まって行う自主ゼミでは、ついついおしゃべりに流れがちであるが、きちんと時間を区切ったり、一人で課題に向き合う時間をとるようにすると、だらだらとしないで済むからである。第9回【後編】では、様々な自主ゼミのロードマップ例をご紹介しよう。これらには、私自身が学部生やロー生の時に試したり、現在指導している学生から見聞したものが含まれている。面白そうだと思うものがあれば、ぜひ冬休みや定期試験前の学習として試していただきたい。

いろいろな自主ゼミ

一口に自主ゼミといっても、様々な目的で行われている。どんな目的で、どのようなタイミングで行われているかに着目して分類し、おすすめのロードマップと、運用時の注意点を述べることにしよう。

タイプ1 試験対策ゼミ~定期試験などの過去問を解こう

最も多く行われていると思われるタイプが、試験対策のために過去問を解くゼミである。定期試験の前に、講義担当の先生が昨年度まで出していた問題を、みんなで解いて、お互いにコメントしてみよう。これは、長い文章を書かなければならない記述式試験が出ることがわかっているのであれば、ぜひやっていただきたい自主ゼミである。

事前準備

試験対策ゼミでは、当然のことながら過去問を自ら解いてみなければ意味がない。当たり前のことでわざわざ注意すべきことではないと思うかもしれないが、実際にはバイトやサークル、そして他の授業の課題などが忙しく、問題を解くための時間が確保できないこともある。ゼミの時間だけでなくその事前準備のための時間もかかるということをきちんと肝に銘じておこう。
最初は書き方がわからないため、本当の時間通り*1にやろうとすると、まともな答案が書けない、ということがある。そこで、このゼミをやる場合には、「正規の時間を計って解き、時間がきたら区切り線を入れて続きを書き、答案の最後には実際にかかった時間をメモしておく」という手順であらかじめ参加者全員が解いてきてから、問題と答案を検討する自主ゼミを始めるとよい。
また、互いの答案を見てみるといろいろなことに気がつくので、参加者それぞれが自分の答案を人数分コピーしてくることをおすすめする。

おすすめロードマップ

参加者全員が問題を解き、そして答案を人数分コピーしてきたことを前提にした、試験対策ゼミのおすすめロードマップは次の通りである。

  1. はじめに(5分):参加者全員の答案を交換し、終了時間を設定する
  2. もくもく(15分):自分を含めた全員の答案と問題文をもう一度読んで、疑問点や工夫すべき点など、【内なる声】を書き出す
  3. わいわい(20分):全員で、問題の検討を行う。疑問点をお互いに質問したり、上手く書けた人にコツを聞く
  4. 休憩(5分):いったん休憩する。トイレに行ったり、おやつなどを食べるならばこのタイミング、とあらかじめ決めておく
  5. わいわい(15分):洗い出した問題点をもとに、どうすれば解けるようになるのかをみんなで考える
  6. もくもく(10分):議論を踏まえて答案構成メモ*2を書き直してみたり、議論をしているうちに確認したくなったことを書き留めておく
  7. おわりに(5分):自主ゼミの進め方それ自体の反省点を確認して、次回の予定を決める
ポイント

このゼミのポイントは、「答案をみんなで検討し始める前に互いの答案をきちんと読む」ということである。この過程をすっ飛ばしてしまうと、きちんと解けた人は問題点を理解して議論を始めることができるが、そうでもない人は、議論についていくことで精一杯になってしまうからである。
また、「わいわい」モードの時間も二つに区切った方がよい。議論の時間が20分を超えると、話題が拡散してどうしてもダラダラした雰囲気になりやすい。そこで、「わいわい」一回目のテーマは問題点の洗い出し、「わいわい」二回目のテーマは改善方策の模索という形にしてみた。これは過去問の内容などによって適宜アレンジしていただきたい。
そして、盛り上がった後は、各自が自分のノートに向き合って、問題点や気がついた点を書き出すことを忘れないようにしておこう。

タイプ2 持ち寄り「自学」ゼミ~もくもく「自学」をみんなでやろう

みんなで集まろうとしたら、思ったよりも人数が揃わない。そんなときには、各自の「自学」を持ち寄って、同じ場所で取り組むタイプのゼミをやってみよう。これを「自主ゼミ」と呼ぶべきかどうかについてはあまり自信がないけれども、どんな風に自学をやっているのかを、お互いに見たり学んだりしながら行うゼミのことである。

事前準備

それぞれが自分が取りかからないといけない「自学」用の教材を持ってこよう。講義のまとめや予復習を行うのであれば教科書やノートを、択一式試験の問題集を解くのであれば、問題集と六法(書き込みしてもよいもの)を持ってこよう。

おすすめロードマップ
  1. はじめに(5分):各自の目標と目的を確認し、もしメンバーに聞いてみたいことがあれば前もって言っておく
  2. もくもく(25分):各自の「自学」課題にとりかかる
  3. 休憩(10分):いったん休憩する。お互いの進み具合などについて軽く声をかけあったりする
  4. もくもく(25分):さらに各自の「自学」課題にとりかかる
  5. わいわい(15分):どこまで進んだのかをお互いに確認し、疑問や相談事があれば質問する
  6. おわりに(5分):自主ゼミの進め方それ自体の反省点を確認して、次回の予定を決める
ポイント

このタイプは、一人でもできることをみんなで集まっている機会に行うものである。そこで、「やらなきゃいけないとわかっているんだけども、どうも取りかかりにくい課題」や、「自分のやり方で良いのか自信がない課題」などを持ち寄るといい。
逆に、自分が最近うまくいっているやり方を共有することもおすすめである。他のメンバーに説明したり、試しているうちに、自分の頭の中でもより良く整理できたり、もっと良いやり方がみつかるかもしれない。

タイプ3 「私のオススメ」報告ゼミ~お互いに「面白かった講義」の報告をしよう

最後に、すこし変わった自主ゼミをご紹介しよう。私が法学部3年生から4年生に進級する春休みに、自主ゼミ仲間と一緒に「自主ゼミ合宿」を行った。それは、「興味のある事柄や、有益だった講義やゼミについての情報を共有するために報告する」というものだった。この話を自分が指導している千葉大学政経学部の学生にしてみたところ、彼女たちも、初年度教育用の演習(基礎ゼミ)の情報を共有するための自主ゼミを開いたというので、とても驚いた。なぜそのようなことを始めたのかを聞いてみると、同じ法政経学部1年生であるにも関わらず、自分達が初めて受けたゼミの内容が大きく異なっていたからだという。たしかに言われてみれば、基礎ゼミの内容は各担当教員ごとに大きく異なり、それぞれの教員が独自に「大学生活で必要なこと」を教えることになっている。「横田先生の基礎ゼミの内容を他の人にも教えたいし、友人の受けた他の先生の基礎ゼミの内容も聞いてみたくて、お互いに報告し合うゼミを企画した」というのだ。
その内容を教えてもらったところ、専門が違う先生による基礎ゼミの内容は、私自身にとっても非常に面白く、勉強になるものだった。基礎ゼミに限らず、大学の講義やゼミは、それぞれとても異なった内容や手法で行われている。その全てを履修することはとうていできないので、自主ゼミ仲間の間で情報共有をしたり、発表の練習をしてみるのはどうだろうか。

事前準備

まず、報告したい人を募集しよう。報告者は、A4で2枚程度のレジュメを作成しておくと、スムーズに報告できる。講義の内容を紹介するのなら、講義のシラバスを引用したり、参考文献などを載せておこう。

おすすめロードマップ
  1. はじめに(5分):報告者の報告順を確認し、レジュメを配布する
  2. わいわい(15分):報告者1が報告する
  3. もくもく(5分):報告者1に対する質問を紙に書き出す
  4. わいわい(10分):報告者1に対する質疑応答をする。なお、このとき「良い質問」の練習*3ができるようなら意識する
  5. 休憩(10分):いったん休憩する。この間に次の報告者は準備する
  6. 以下、2~5をすべての報告者が終わるまで繰り返す
  7. おわりに(15分):自主ゼミの進め方それ自体の反省点を確認し、報告が上手かった人にそのコツを教えてもらう
ポイント

賢明な読者の皆さんはお気づきであると思うが、これは少人数ゼミでの報告や質疑応答の練習になっている*4。もし、少人数ゼミでの報告がうまくできなかったり、発言しようとすると緊張してしまったり、指導教員からの質問が怖いという人は、ぜひ、やってみよう。手始めに、「あなたが面白かったと思う講義の内容紹介ゼミ」や、「面白い本をおすすめしあうゼミ」をしてみてはどうだろうか。

自主ゼミ仲間とのつきあい方

このように、「自主ゼミ」といっても様々なやり方や内容が考えられる。ぜひ、良い自主ゼミ仲間を見つけて、とりあえず試してみよう。各ロードマップの「おわりに」に付した「自主ゼミの進め方それ自体を反省する」という項目は、自主ゼミ仲間でお互いの能力を伸ばしていくためのコツである。
同じ進路を目指している人同士だと、ときに「ライバル」関係になって、ぴりぴりしたムードになってしまうこともあるという。しかし、「お互いがお互いを伸ばしていく」のもまた、良きライバルである。私自身は、学部時代にどうやって勉強したらよいかわからなかったところ、自主ゼミ仲間に教えられ、支えられ、そして意地を張ったり自慢したりするために自学した結果、学習習慣が身について、法科大学院に進学することができた。ぜひ、足を引っ張り合う相手ではなく、良きライバルを見つけて頑張っていただきたい。

次回予告

法学学習を一通り終わった後に進学する法科大学院ロースクール)。そこで私が見たものは、法学部の頃には想像もしていなかった、実務系科目と理論系科目の交錯だった。次回は、ロースクール生として学んでいくうちに気がついた、法学学習の「縦糸と横糸」についてお話しする。

第9回【後編】まとめ

  1. 「はじめに・わいわい・もくもく・休憩・おわりに」を組み合わせてロードマップを作ってみよう
  2. 試験対策だけでなく、「自学」の持ち寄りや「講義紹介」の自主ゼミも楽しいよ
  3. 足の引っ張り合いではなく、お互いを伸ばしていく良きライバルを見つけよう

*1:私自身が担当する「行政法Ⅰ」講義の期末試験(前半は正誤問題、後半は長文記述式問題)の時間制限は80分であり、最後まで書き切れている答案は本当に少ない。

*2:答案構成メモとは、答案を解答用紙に書く前に、メモ的に書き出しておくアウトラインのことである。この手順を踏むことの重要性については、第4回【後編】を参照。

*3:良い質問については、第7回【後編】を参照。

*4:第7回【前編】・【後編】をアップした後に、ある学生から「少人数ゼミがそんなに面白いところとは知らず、履修登録をしなかったので残念だ」という感想をいただいた。今回紹介した「自主ゼミ」は率直に意見交換のできる友人が1、2人いれば今からでもできるので、ぜひこの冬休みや春休み期間に試してみていただきたい。

第9回前編:行程表(ロードマップ)を決めて「自主ゼミの罠」を回避しよう

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みんな、自主ゼミってどんな風にやってるの?

この連載では、大教室講義と少人数ゼミ、そして自学を【法学学習のトライアングル】と位置づけて、法学学習のコツについて考えてきた。今回は、自分ひとりではなく、「友人と共に学ぶ自学」、いわゆる自主ゼミについてとりあげよう。自主ゼミとは、少人数ゼミを学生の自主的な活動として行うことを指す。
自分ひとりでコツコツと「インプット」型の勉強をしていると、飽きてきてしまって、どうもやる気がわかない。また、「アウトプット」の練習として書いた答案を誰かに見てもらいたいけれども、先生に見せるのは気が引ける。そんな理由で、共に勉強する仲間を集めて自主ゼミを行う学生も多いだろう。私自身も、学部3年生から始めた自主ゼミで同期と議論したり共に学んだりしているうちにようやく法学学習が楽しくなってきたという経験があるので、学生が自主ゼミを行うことそれ自体については肯定的な立場をとってきた。
ところがある時、学生向けに、先輩(学部4年生やロースクール生)と、後輩(学部2、3年生)とが進路や法学の勉強法について語り合うイベントを開き、その司会をしていたところ、「先輩側」の出席者からこんな発言が飛び出した。

「自主ゼミをしようと頑張る人たちがいるんですけど、正直、まだ学習が進んでいない学部3年生前半くらいまでの段階で自主ゼミをするのはオススメしないですね・・・」

この発言を皮切りに、参加した学生から「自主ゼミがうまくいかなかった」という体験談が多数集まった。また、「みんなが自主ゼミをやってるのは気になっているけれども、どんな風にやっているのかわからない」という感想も多数寄せられた。
そこで第9回では、自主ゼミを行う上で失敗しがちなポイント、すなわち「自主ゼミの罠」について紹介した上で、その解決策を考え、オススメの運営方法を示そう。もちろん、あくまで「自主ゼミ」なので、やる気のある読者の皆さんは、ここであげる例を参考に「自主的」に企画運営してほしい。

自主ゼミの罠

自主ゼミがうまくいかなかったという参加者が指摘した、自主ゼミの罠。もっとも大きな問題は、「気がついたら時間が過ぎていて、勉強したつもりになっているのだけども、自分ひとりでやる勉強に比べて身についていない」というものである。気の合う友人とおしゃべりすると楽しいし、議論しているうちに時間を忘れてしまうからだ。この「時間がすぐに過ぎてしまう」という問題だけでなく、自主ゼミがうまくいかなくなる要因として、考えられるものをいくつか挙げてみよう。

パターン1 つい関係のない話題にそれてしまう

仲の良い集まりだと、つい関係のない話題にそれてしまうことがある。講義の復習をしていて、先生の噂話を始めたり、友達と遊びに行った話になってしまったり・・・息抜きにはちょうどよいけれども、そればかりになってしまっては本末転倒である。

パターン2 勉強が進んでいないために「わからないなあ」で止まってしまう

過去問をみんなで解いてみて、互いに採点してみようという企画をしたとする。これ自体は有益な方法で、自分たちの表現がちゃんと他人に伝わるものになっているかどうかをチェックすることができる。しかし、お互いにまだ学習が足りていないために、何を書いたら「正解」と言えるのかがわからない。そんなこんなでいくら議論していても、「わからないということがわかった」という気づきは得られるものの、そこから先に進めなくなってしまう。

パターン3 議論が延々と続いてしまう

勉強をたくさんした人が複数いるときは、議論が延々と続いて、結論が出ないままになってしまうこともある。期末試験などの過去問を検討するゼミの場合を想定してみると、「この問題、適法という結論で書くべきか、それとも違法という結論で書くべきか?」「○○罪は成立するか?」という議論で盛り上がるのはかまわない。確かに、その問題を解くには必要な議論である。しかし、その議論が面白いからといって、細かい違いなどに踏み込みすぎて、そこの議論だけで終わってしまうと、結局「時間配分も含めて全体をどのように書くべきか」、「最後まできちんと時間内に書き切るためには、どういう風に勉強を進めようか」という点には至らないままになってしまうこともあるだろう。
自主ゼミではつい時間を忘れて盛り上がってしまうけれども、みんなが集まった目的が「期末試験対策」だとするならば、どうやれば答案が書けるだろうか、という実践的なところや、メインの論点以外も視野に入れた答案の組み立て方など、相談すべきことはたくさんある。しかし、ついつい目的を離れて、議論ばかり続いてしまうこともある。

パターン4 熱心に取り組む人と、受け身の姿勢で参加する人に分かれてしまう

「お互いに教え合う」という発想は良いけれども、いつのまにか、毎回真面目に準備してくる熱心な人と、教えてくれという受け身の姿勢で来る人に分かれてしまうこともある。そうなると、何のために自主ゼミをやっているのかについて、メンバー間で温度差が出来てしまう。酷いときには、不公平感からゼミメンバー間の仲が険悪になることもある*1

何のための「自主ゼミ」か?

パターン1や2は学部生の自主ゼミに、パターン3や4は、ロースクール生の自主ゼミによく見られる現象だと思う(あくまで、私自身が見聞した範囲では)。これらの「罠」に陥らないためにはどうしたらよいだろうか。以下では、わいわいやりたいAさん、議論が大好きなBさん、少し勉強が遅れていて引っ込み思案のCさんが、自主ゼミを行うという設定で、パターン1、パターン2、パターン3の罠について考えてみよう。

自主ゼミに何を期待するのかをみんなで確認しよう

いずれのパターンにも共通している問題は、参加者間で何のために自主ゼミを行うのか、自主ゼミの目的がきちんと共有されていないことにある。「つい話題が関係のない方向にそれてしまう」というパターン1も、「一人で勉強していてはひどく落ち込んだり、ふさぎ込んでしまうから、メンタルをなんとかするために自主ゼミを行いたい」と考えているAさんにとっては、そこまで悪いものでもない。
他方、「えんえんと議論が続く」パターン3も、議論が好きで好きで仕方がなくて、そのために自主ゼミを行うつもりであるBさんにとっては、問題はない*2
これらが「罠」となってしまうのは、参加者の参加目的がそれぞれ違っているにもかかわらず、それを明示的に確認しないで自主ゼミのために集まろうとしてしまうことである。自分ひとりで行う自学ではなく、あえて自主ゼミという形で勉強することに何を期待しているのかを、それぞれがきちんと表明し、すりあわせておく必要がある。

問題点を認識する

また、しばらくやってみたあとで、問題点を客観的に認識するよう努めよう。AさんとBさんが話し合って、うまく議論がかみ合うようになってきたように見えても、ひょっとしたら、参加者全員勉強が足りておらず、パターン2の罠に陥っているかもしれない。本人たちはわかったつもりでも、実はAさんとBさんを含む全員がよくわかっていなかったということは(恐ろしいことに)あり得るのである。
たとえば、AさんとBさんは、万引きをした事例についての罪責を論じる事例問題について、窃盗罪(刑法235条)が問題になると思って、それについて議論をしていたとしよう。

刑法
(窃盗)
235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
・・・略・・・
(強盗)
236条1項 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
236条2項 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
・・・略・・・
(事後強盗)
238条 窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。

しかし、実はこの事例問題では「逃げている途中で店員を押しのけた」という一文が入っており、それが事後強盗罪(238条)にいう「暴行」にあたるのかどうかを論じる必要があった。それを、Aさんは事後強盗の規定を知らず、Bさんは勉強はしていたものの事例中の一文をうっかり見落としてしまっていたために、二人とも窃盗罪の構成要件についての話題で盛り上がってしまったのだ。
また、AさんとBさんが盛り上がっているそばで、他の参加者であるCさんは置いてけぼりになっているかもしれない。本当はよくわかっていないのだけれども、楽しそうな二人の前で、「実は自分はよくわからないんだ」とはなかなか言えない。二人が話しているそばで教科書を開いて確認しようとしても、議論が続いている間はそれもまた難しい。

それぞれのニーズと課題を共有する

いままで出てきた3人のニーズと課題を書き出してみると、次のようになる。

Aさん:ひとりだと勉強が辛いから、わいわい話したい。すぐ話題がそれてしまう
Bさん:議論が楽しくて仕方ないから、どんどん議論したい。時間を忘れてしまう
Cさん:話そうとしたらわからないことがたくさん出てきてしまう。どうしていいかわからない

Cさんは、ある意味では自主ゼミの効果を一番に感じている人でもある。第7回【後編】の少人数ゼミでの質問や第8回【前編】の自学における【内なる声】でも触れたとおり、実際に議論をしてみたり、問題を解いてみると、わからないことがたくさん出てくる。それを第8回【後編】で説明したように、自学を進めていくためのきっかけにできればよい。しかし、AさんとBさんの議論に押されて、何がわからないのかがよくわからなくなってしまったり、「楽しそうにしているのを邪魔してもいけないな」などと思ってしまって、何も言い出せず、結果「なんとなく勉強したつもり」になってしまうことがあるのである。
そうならないように、Cさんは「何がわからないのかがわからないからちょっと話を聞いてほしい」と切り出せればよいのだが、AさんとBさんがいったん止まらないと、このような問題をみんなで認識することは難しい。
この3人が自主ゼミに期待することは、それぞれ有意義なものである。たしかに、Aさんの考えるように、勉強はみんなでやったほうが楽しいし、一人ではうまく取りかかれないのならば、きっかけづくりに自主ゼミを行うこともあるだろう。また、Bさんのように、議論をたくさんするために、少人数ゼミでは手が回らない科目について、自主ゼミで語り合うのも勉強になる。ただ、そこで出てきた問題点をきちんと認識して自学につなげていくためには、Cさんのように、わからないことをきちんと認識しようということも必要になる。
この3人が集まって自主ゼミをするのであれば、それぞれが何のために自主ゼミをしようとしているのかをきちんと共有して、その目的を達成するにはどんな設計をすればいいのかをきちんと話し合っておく必要があるだろう。
「せっかく仲良く集まろうとしているのに、こんな話をするのは水を差すようでちょっと・・・」という人もいるかもしれない。しかし、ここをきちんとやっておかないと、集まるためにかけた労力や、集まっているときの時間が無駄になってしまう。どの考え方も一理あるのだから、恐れずに確認してみよう。

より良い自主ゼミのために

それでは、どうすればより良い自主ゼミになるだろうか。

改善策その1 行程表(ロードマップ)を決める

まず、自主ゼミを始める前に、5分間だけ時間をとって、ロードマップを全員で決めよう。ロードマップとは、行程表、あるいは時間進行予定表のことである。イベントを始める前に、このイベントの目的は何か、時間ごとに何をするのか、をあらかじめ決めておくのである。
自主ゼミを始める前に、全員で次のことを確認しよう。

  1. この自主ゼミ全体の目的は何か
  2. 今日の回は、何時までで終わらせる予定か
  3. 今日行うゼミの目的や目標は何か
  4. 途中で抜けるメンバーはいるか(→いる場合、全員いる内にやるべきことは何か)
  5. 時間を区切って、どこで何を行うか

そして、集中しきってしまう前に、スマホアプリのタイマー機能などを使って、時間になったらアラームが鳴るようにしておこう。
このときのポイントは、息抜きや休憩の時間もあらかじめ予定しておくことである。たとえば、25分議論したら、5分はトイレ休憩ということにして、しっかり休みをとってから、また次の話題についての25分を行う、というような感じである。講義とは異なり、時間が決まっていない自主ゼミはだらだらしやすいが、前もってどのあたりで休憩するのか等を確認しておくことで、議論の拡散を防ぐことができる。

改善案その2 「みんなでわいわい」と「それぞれもくもく」を切り替える

次に、ロードマップを決めるときに、全員で議論する「みんなでわいわい」モードの時間と、黙ってそれぞれが目の前の課題に取り組む「それぞれもくもく」モードの時間を意識して切り替えるようにしよう。
「それぞれもくもく」の時間をあえてつくるメリットは二つある。ひとつは、同調により学習に取りかかりやすくなるという効果である。図書館や自習室だと勉強に集中できるという人もいるだろう。それは周りも頑張っているからである。「ひとりだとなかなか勉強するモードに入れない」というAさんにとって「目の前で他の人も頑張っているから自分もがんばろう」と、ふだんよりも取りかかりやすくなるという効果が期待できる。
もうひとつは、その場で調べて学び、さらにそれを他のメンバーに向かってアウトプットすることで確認することができるという点である。「議論している内にわからないことがたくさん出てきてしまう」というCさんにとっては、「それぞれもくもく」モードに入ったときに、何がわからないのかをきちんと書き留めておいたり、教科書等で調べてみることができる。やっとわかるようになったのなら、次の「みんなでわいわい」モードの時間にAさんやBさんに説明して、自分の理解が深まっているのかどうかを確認してみよう。
また、調べた結果やっぱりわからないのなら、それを質問することもできる。

実際にどうやるの?

改善案を提示したところでかなりの長さになったので、次回第9回【後編】では、「みんなでわいわい」と「それぞれもくもく」を切り替えながら、どのように自主ゼミを運営していくかについて、具体的な例と共に考えていこう。

第9回【前編】のまとめ

  1. 「なんとなく勉強したつもりになってしまう」という自主ゼミの「罠」を回避しよう
  2. 自主ゼミの目的をみんなで確認しよう
  3. ロードマップを作ってから取りかかろう

*1:なお、一方が他方に教えるゼミが常に険悪になるというわけでもなく、これを問題点とみるべきかどうかの評価は難しいので、以下の検討からはパターン4についての言及は外してある。本当に良く出来る人は良く出来るし、その本人が「教えること」によって得られるものがあり、それを全員が納得しているのであれば、とやかく言うべきことではないのかもしれない。しかし、私個人の意見としては、全ての科目について「教える人」と「教わる人」に分かれてしまうくらい実力差がある自主ゼミはあまり健全ではないように思う。もっとも、私も学部3年生当時、既に司法試験に合格するほどの実力がある同期に自主ゼミで基本6科目をよく教わっていて、その「お返し」に基本6科目には入っていなかった行政法を頑張っていたところ、それが元となって行政法の研究者になっていたりするので、メンバー間で実力差のある自主ゼミが一概に悪いものともいえないという事情がある。

*2:もっとも、Bさんのような考えを持っている人は、議論をすることだけに夢中になってしまい、コツコツ型の自学(用語の定義を覚える、条文を読む、択一問題を解くなど)がおろそかになりやすい点に注意が必要である。何を隠そう、学部時代の私自身がそうだった。

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