第8回後編:【内なる声】をきっかけに自学をすすめよう

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【内なる声】で法学学習を深めるために

前回(第8回【前編】)では、大教室講義や少人数ゼミのノートをとるときに、「現在行われている議論の流れ」を書くだけではなく、「【内なる声】メモ」を書いていくことによって、その時々の疑問や驚き、そして意欲を次の自分に引き継ぐこと、そしてそれに対して応答していくことで、より深く、漏れのない学習につなげることができる、と述べた。なんとなく思っていることを、「思っているだけ」では済ませずに、ちゃんと自分の頭の中から出しておき、それを引き継いでいこう、というわけである。今回は、それをさらに深めるためのコツについて検討したい。

法学学習者が陥りがちな「アウトプット不足」

このような着想を得たきっかけは、法学学習者にみられる「アウトプット不足」問題である。
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第5回【前編】と第5回【後編】では、インプットとアウトプットがつながっていることを紹介した。ところが、実際に学生と面談してみると、大教室講義のための予復習のために教科書を読む等のインプットは頑張って行っている人でも、アウトプットがおろそかになっている例がみられる。一生懸命覚えたつもりでも、いざ自分の頭から出してみようとすると混乱してしまったり、疑問がわいてしまうということはよくあること*1である。私は、これらはアウトプット経験の不足に起因していると考えている。
よくよく考えてみると、法学学習者がアウトプットを意識するのは定期試験問題・各種資格試験を解くときや、ゼミで自分が報告する場面に限られがちである。そのため、いざテストのときになって、「なんとなくわかっていたつもりだったのに実はよくわかっていない」ことに気がつくという不幸な出来事が起こりやすい。

【内なる声】とアウトプットの関係

そこでこの第8回【後編】は、アウトプット不足を補うために「インプットをしたらすぐに、自分で自分に質問を振って、アウトプットをしてみよう」ということを提案したい。この狙いは、【内なる声】を拾い出しやすくすることにある。単に講義を聴いてノートを取るだけではなく、さらに自分の出した質問に答えることで、「わかったつもりになっていたけれどもよくわからないこと」や、「さらに学習してみたいこと」を引き出してみよう、というわけである。実は、【内なる声】を拾い出すためには、受け身になって情報を覚えようとするインプットだけよりも、アウトプットも交互に行う方がよりやりやすい。自分がどう感じているのかも考えながら、法学を学んでいこう。

大教室講義でのコメントシート

私の担当する大教室講義では、インプットばかりに意識が向きがちな学生にもっとインプットとアウトプットの両方を行き来してもらうために、コメントシート課題を用意している。これは、A6サイズ(A4の紙を1/4にしたもの)に切った裏紙を配布して、学生に氏名等と質問や感想を書き込んでもらうものである。一般の講義では単なる質問シートとしてだけ扱っている*2が、応用科目である3・4年生向けの環境法においては、毎回「お題」を設定して、受講者全員が提出することにしている。各回におけるお題は少しずつタイプの異なるものにしており、これは講義後のアウトプットとしてやっていただきたいことのリストでもある。以下では、どんな種類のお題をいままで出してきたのかを紹介しつつ、「自分で自分に質問を振って、【内なる声】を拾い出す」ための、大教室講義から自学につなげるための質問例として活用していただきたい。なお、タイプ1がもっとも簡単なお題で、だんだん難しい種類のものになっていく。

タイプ1 今日の講義についての感想や疑問を(何を読んでそう思ったかも含めて)書き出そう

最もスタンダードなお題は次の通りである。

今回の講義であなたが感じた感想や、質問を書いてください。
できるだけ、何をどのように読んでそう思ったのか、レジュメや教科書の箇所を明示してください。

疑問についても典拠を挙げるように、と求めているのは、実際には教科書の参照頁を示すためにもう一度読み返してみたら自己解決した、という事例が多いからである。また、こうすることで、第7回【前編】【後編】で紹介したゼミでの質問のように、質問も「主張・理由・証拠」の形で記述できるようになる。
実際のコメントシートでは、このお題を出すと、ちょっとした疑問であるとか、もっと勉強してみたいという意欲などが多く寄せられる。

タイプ2 今日の講義の内容からあるテーマにそってキーワードをピックアップしてみよう

この使い方は、ミニテストに近い。その日の講義のなかから、重要な項目を拾い上げてみることで、講義のまとめをしてみようというものである。
例えば、環境法の第3回講義「環境法の基本原則」のときには、環境基本法とそれに関連する条約等を紹介した講義のあとに次のお題を掲げた。

環境基本法にはまだ不足しているものがあると指摘されることがある。それは何か。環境基本法の具体的な条文をあげながら、足りないと思われることについて指摘せよ。

実際の講義では、「環境基本法の限界」については3、4箇所くらいの項目でバラバラに紹介された事柄を、ひとつの視点であとからまとめなおしてみよう、というものである。これは、講義後にまとめノートをつくるという自学の練習にもなるだろう。

タイプ3 自分の過去の知見と結びつけてみよう

法学での学習は、今までの講義とのリンクを張りながら考えるとより「使える」ものになる。会社法の講義を受けていれば民法での講義を思い出すことがあるだろうし、行政法民法憲法民事訴訟法との関連が多い科目である。そこで、今回の講義で学んだことを、今まで身につけた知識や経験と結びつけて考える時間をとると、もっと学習が楽しくなる。
環境法の講義では、社会に出る一歩手前の大学4年生が多く受講している科目であることも鑑みて、法学での学びとこれまでの社会経験とを結びつける訓練も意図している。そのため、第4回「環境保護の担い手」という回では、環境法を担うのは行政だけでなく、市民や企業もその主体になる、ということを述べた上で、次のお題を出した。

あなたの周りで市民やNGO、企業が環境保全のために行っている取り組みを教えてください。特に、それが法的にどのような意味をもつのかも、わかる限りでいいので教えてください。

このお題に対するコメントシートには、千葉大学の環境ISO委員会の話題や、自治体での補助金政策、ニュースで見聞した話題など、多様な意見が寄せられた。教科書を通じて学ぶことと、いまここで生きて得ている知見とを結びつけることができているようだ。

タイプ4 即興の【発想→整想→成果物】形式で、ミニレポートを書いてみよう

一番難しく、しかしやってみると非常に力になるタイプの質問は、あたかもレポートを書くときのように、【発想→整想→成果物】の3つのステップ*3を踏んで、まとまった文章を書いてみることである。

A)事前課題~発想のフェイズ

第5回「環境保全の手法」では、電車が遅延したために授業開始を10分遅らせた。早く来た学生に申し訳ないので、講義開始まで、板書として次の課題を出した。

あなたが知っている「市民に何かをしてもらうための方策」について、国や地方自治体が
1)用いることができるもの/できそうなもの/できないものを、考えつくだけたくさんリストアップせよ。
2)上でリストアップしたもので、その過程のどこかに「法」がかかわるものがあれば、具体例(できれば法の名前や条文も)を挙げて示せ。

10分間この課題に取り組んでもらったあと、規制的手法や誘導的手法についての講義を行った。

B)コメントシート~整想と成果物作成のフェイズ

講義を終えた後に掲げたコメントシートのお題は次の通りである。

「市民に何かをしてもらうための方策」として、国や地方自治体が用いることができる手法を1つ以上、紹介すること。
その際、「法と政策」の関係を必ず示すこと。

このお題は、そのまま期末試験として使ってもよいくらいに難しいものである。そこで、まずは事前課題の1)において、発想、つまりとにかく書き出してみるという作業を行ってもらい、徐々にそれを選別する「整想」を行ってもらい、最後に成果物としてのコメントシートを出してもらう、ということを試みた。
このようなやりかたは、講義直後に試してみるには荷が重いかもしれない。しかし、毎回の講義から、予想問題を作ってみて、自分で解いてみるということは以前もオススメしたことがあるので、意欲がある方はぜひチャレンジして、アウトプット不足を解消していただきたい。
なお、タイプ1~3はお題を事前に予告していたが、最後のタイプ4はその場で考えて出題した。少し難しかったようだが、かなり熱いコメントが多数寄せられた。

それぞれの場面でのアウトプット

コメントシートは、インプットばかりになりがちな大教室講義に、アウトプットの機会を付け加えて【内なる声】を引き出していくためのアイデアである。それでは、法学学習のトライアングルのそれぞれの場面(大教室講義/少人数ゼミ/自学)において、どんなアウトプットの機会があるのかを、【内なる声】の探し方と共にみていくことにしよう。

大教室講義でのアウトプットと【内なる声】

大教室講義では、学生はレジュメや教科書を読みつつ、講義を聴いて板書を読み、ノートをとることが求められている。すると当然、大教室講義では、「先生の話を聞く」・「教科書やレジュメを読む」、「板書を読む」、「六法から条文を探して読む」ことが、インプットとして行われている。
これに対して、アウトプットはあまり意識されていないかもしれないが、よく考えてみると、次のような活動もアウトプットといえるだろう。まず、教科書やレジュメなどを読んだ時に、どこが大事なのかを判断して線を引くことも、アウトプットである。これは、「あ、ここ大事だな」という判断をして、その結果を書き出しているからである。同様に、「先生の言っていることをもとにノートを書く」というのもアウトプットである。録音でもしていない限り、先生が話した内容を一言一句再現するようなノートテイクは非常に難しいのだから、必ず取捨選択を行っているはずである。この取捨選択の過程で、どこが大事なのかを判断して書き取る力がついているはずである。
それに加えて、前回も触れたように、講義を聞いているときにふっと浮かんだ疑問や驚き、感想やこれからやる学習のアイデアなどの【内なる声】を取り急ぎ書き留めておくとよい。前回述べたことの繰り返しになるが、これら全てをいっぺんにやろうとすると時間が足りずに先生の言っていることまでメモしきれなくなる恐れがあるので、そのような場合は適宜、省略を使って後から補充するとよい。「授業時間内は教科書の該当ページやレジュメの見出し番号だけメモし、項目名等は後から補充する」などの工夫をして、必ず講義後に補充と読み返しを行う自学の時間を作ろう。
また、レジュメの欄外に書き込むことでノートを取っている人は、黒板で教員が図解を始めたときに書く場所が足りず、戸惑うことが多いようだ。そのような人には、「黒板の図解だけは別途(ルーズリーフなどに)ノートをとり、あとでレジュメの記述と一緒にまとめノートを作って統合する」という工夫もよいだろう。講義時間中に完璧なノートができなくても、後からきちんとまとめることができればよいし、そのための時間を作るようにすることが大事である。

少人数ゼミでのアウトプットと【内なる声】

少人数ゼミでは、学生は自分が報告担当の回であれば、判例やテーマについてまとめてレジュメを作り、報告することになる。そのとき、他の参加者は報告を聞いて質問をすることが求められている。少人数ゼミでは、報告内容をまとめるための資料調査や、他の人の報告や先生の解説を聞くことなどがインプットにあたる。
これに対して、報告者としての回にむけて、報告内容のレジュメを書くということが少人数ゼミでの最大のアウトプット作業である。それ以外のゼミの形式でも、事例演習型であれば事例問題を解いて答案にすることがアウトプットである。また、報告者ではない回であれば、ゼミ中に質問や感想を話すことも立派なアウトプットといえるだろう。
このように、少人数ゼミではどちらかというとアウトプットの比重が大きいが、実際にやってみると、しっかりインプットしてからでないとうまく言えないことがわかるので、さらなるインプットが自学等で必要になる。この「うまく言えなかった」という想いを、ゼミノートの片隅に書き留めておこう。この【内なる声】が、自学をするときの動機付けになる。

自学でのアウトプットと【内なる声】

大人数講義や少人数ゼミだけでは足りないことや、自分でもっとやってみたいことを、自主的に行うのが自学である。そのため、いろいろなインプットとアウトプットの方法が考えられる。例えば、大教室講義の予習や復習のために教科書やレジュメを読むというのが代表的なインプットである。それ以外にもノートをまとめるときに他の教科書類や六法を読んだり、各種試験対策のために参考書を読むという人もいるだろう。発展的学習のために、論文集や判例を読む人もいるかもしれない。
これに対して、自学でのアウトプットの代表例としては、大教室講義を受けて自分なりのまとめノートを作ってみるという作業があげられる。その際、コメントシートのお題タイプ2として紹介した「講義の内容からあるテーマにそってキーワードをピックアップしてみよう」という質問を活用してほしい。このまとめノートはパソコン等を使ってまとめてもいいし、自分で書いて覚える、覚えているかを確かめるという人もいるだろう。また、各種問題を実際に解いてみて、答案を書くというのも立派なアウトプットである。また、択一形式の過去問を解いて、間違えた箇所を確認しながら判例つき六法に書き込む(サブノートにするような勢いで)という方法も、アウトプットであろう。

【内なる声】を使ってインプット・アウトプットをどうやるか?

ここまで紹介してきたインプットやアウトプットについて、読者の皆さんが体験したことがないものはあっただろうか? もしも「そういうのはありそう」「やっている先輩を見たことがある」というレベルにとどまっているのであれば、実はインプットやアウトプットを効果的に行うためには「やり方を知っている」だけでは足りず、トレーニングが必要だということを覚えておいていただきたい。とくに、【内なる声】を使ってインプットやアウトプットをやるためには、色々と試行錯誤をしてみるとよい。「わからない」と思ったことがわかるようになっていく過程はとても楽しいものなので、実際にやってみてそれを体感していただきたい。

トレーニングがいる場面

ここまで、さらっと「ノートを書く、まとめる」などと書いたが、「ノートの書き方」ひとつ取っても実は結構コツがいる。同じように、「答案の作り方」や「忙しい学生生活での時間の使い方」も、ある程度のトレーニングが必要になる事柄である。実は、講義を受けてノートをとるというのは、講義の内容について学ぶだけでなく、学び方(アウトプットの仕方)も一緒に練習していることになることを意識してほしい。
また、いくら学習内容のインプットが完璧でも、答案を書こうとして書けないことがある。「何が自分にとって足りないか」を知るためには、一回アウトプットをやってみないとわからない。これが第4回【前編】・【後編】で「アウトプットの心がけ」として言いたかったことである。

インプット・アウトプットを行き来してレビューをする

つまり、ひとつの学習ではその内容だけでなく、その「やり方」も一緒にトレーニングしている。だから、いま自分がやっているやり方が、本当にベストなものなのか見直してみるべきである。このことに気がつくには、その学習時間だけでは難しい。別途時間を作って、自分の時間の使い方や、インプット・アウトプットのやり方そのものについて、レビューをしよう。「いまこういうやり方でノートをとっているけれども、このやり方は効率的だろうか?」とか、「ゼミでのノートテイクがうまくいかないから、他の班員とみせあいっこしてみよう」など、レビューによってより良いやり方が見つかることもたくさんあると思う。

簡単なやり方:友達に話してみよう

【内なる声】に応答するように自学を進めていくと、本当に理解できているのか、自分がつかんだコツは有効な方法なのかがわからなくなることもある。そんなときは、共に学習する友人と意見交換をしてみよう。学生から、「本当にわかっているのか自信が無いのです」と相談されることがよくあるが、自分が本当にわかったと言えるかどうかを簡単にチェックする方法は、失敗しても怒らない友人に、あれこれと説明してみることである。よくわかっていないことがあればどこかで説明がおかしくなるし、友人も疑問を持つだろう。そうなったら、その【内なる声】をさらに使って、インプット・アウトプットを進めよう。

次回予告

友人と取り組む学習についての話題が出たので、次回は、学生たちで主体的に行う自学としてのゼミ、いわゆる自主ゼミをやるときの注意点について述べることとしよう。自主ゼミとはどういうふうにやるのか? 陥りがちな罠とは何か? 私自身の経験も踏まえてお答えしたい。

第8回【後編】のまとめ

  1. 「自分で自分に質問を振る」ことで、【内なる声】をもっと集めてみよう
  2. 各場面におけるアウトプットで、【内なる声】を拾ってみよう
  3. やり方そのものもトレーニング、ときどきレビューして改善しよう

*1:アウトプットの際の心がけについては、第4回【前編】・【後編】を参照。

*2:学部2年生向けの行政法Ⅰでは、完全に任意提出(匿名可)の扱いにして、講義後質問や授業改善提案等に対応するために使用している。

*3:詳しいやり方については、第4回【前編】・【後編】を参照。

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