読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

第2回後編:教科書と講義の関係は?~教科書とのつきあい方

f:id:Kfpause:20150520134358p:plain:w300

教科書指定は人それぞれ

第2回【前編】では、教科書指定される本にも「体系書」と「テキスト」があるということを書いた。それでは、実際の講義ではどのように教科書が利用されているのだろうか?私が見聞した範囲内でも様々なやり方がある。まずはそれらを紹介した上で、自分自身が教科書指定をするときに考えたことを述べよう。最後に、以上をふまえて教科書を買ったらまずしてほしいことをお伝えしたい。

いろんな「教科書の使い方」

教わる立場からの視点からも、同僚の教え方を見るFD(ファカルティ・ディベロップメント。授業改善のための活動)の観点からも、実に様々な使い方があるものである。

1)教科書にそって進める

ご自身が執筆した本を指定する先生に多いやり方。講義のシラバスと教科書の目次の対応もつかみやすく、学習者目線でみると安心感がある。

2)教科書執筆者と対決する

教科書の体系と講義担当者の体系が違っていたり、各論点で「A先生(教科書執筆者)は~~といいますけども、私(B先生)は以下の理由で……と考えます」というように、教科書指定した本の執筆者と対決するような講義をする先生もいる。かつて私自身が受けた講義では、ご自身が執筆した本は教科書指定せず、その先生からみて先輩にあたる方の体系書を指定してこのような講義をする先生がいた。正直言って面食らう場面が多いものの、どうしてA先生とB先生は違う理由付けや結論に至るのかがわかるという意味で、エキサイティングな講義だった。

3)教科書はあくまで参考書であり、自作教材に沿って進める

まだご自身で教科書を執筆していない方に多いやり方。自分自身の体系や教えやすい順番をもっているので、それにそって詳細なレジュメをつくり配布する。講義はレジュメを中心に進めるが、教科書も指定されている(あるいは、数冊から自分の好みで選ぶよう指示されている)。なお、この自作教材がもとになって本となり、後の教科書となることも珍しくない*1

講義担当者の心境

実際には1)から3)が混在していることがしばしばあるので、受講する学生からみると講義担当者の意図がわからないことも多いだろう。とくに2)のタイプの場合、「なんでB先生はこのA先生の本を指定したんだ?批判ばかりしているんなら、指定しなきゃいいのに」という戸惑いを隠せない。ただ、それぞれのやり方にはそれなりの理由がある。

教科書指定の理由

教科書にそって進める講義の場合、学生は「教科書を読み上げているだけでは」と思うかもしれない。けれども、このタイプの講義の場合は、平板になりがちな教科書の記述のどこに重点があるのか、この記述になっている背景にはどのような考えが潜んでいるのかが講義でわかるようになっている。
他方、教科書執筆者と対決する場合は、対比をすることで、それぞれの先生がどのような思考を踏まえてその結論に至ったのかがわかるようになっている。
また、自作教材を作っている場合は、まさに今「体系」を構築しようと試みていたり、教えやすい順番を編みだそうとしている最中であることが多い。どの教科書も多かれ少なかれ「体系書」としての性質を有しているが、それが必ずしも講義担当者の考える体系ではないことが多いし、実は教えるために適した順番と体系にそって教える順番とがかみ合っているとは限らない。そこで、迷子にならないように自作教材でその順番を示しつつ、体系書を別途参照するように促しているのである。

私自身の考え方

ここまでをお読みになってお気づきかもしれないが、私自身は1)寄りの3)である。私が過去に指定した教科書は、「体系に定評がある一冊本」という観点で選んだ*2。そうすると、講義範囲(行政法総論+国家補償)を超える部分(行政争訟など)についても記述がある本を指定したことになるが、それは全30回の講義を受け終わった後にも行政法に触れる機会があるときにはぜひ手元にある教科書を開いて欲しい*3という配慮と、ひとりの著者による体系にそって全体を理解したほうがわかりやすいところもあると考えたためである。
ただし、教科書執筆者と自分の考えが大きく異なるところもある。特に、教える順番については自己流の考え方がある*4。そのため、レジュメでは繰り返し「ここから先は第○回で」等と書いたし、第○回では「以前の回の復習」も加えたりと工夫を試みた。…このやり方は、面白いと感じてくれた学生もいれば、あっちこっちに飛びすぎてかえって混乱したというコメントを残してくれた学生もいた。なお、この「あっちこっちに飛ぶ」ことを解決するために、通常、教科書には巻末に「事項索引」と「判例索引」がついているし、リンク先を文中で明示している本もある*5

教科書を買ったら

教科書指定にもそれぞれの理由があるということがわかっていただけたところで、最後に、教科書を買ったらぜひしてもらいたいことが幾つかあるのでご紹介したい。

はしがきを読む

第2回【前編】でも述べたとおり、教科書指定される本にもいろいろなものがある。執筆経緯と想定読者を把握するためにも、また著者自身の意図を探るためにも、まずははしがきを読んでいただきたい。

授業と教科書と条文をつきあわせる

今回特に述べたいのはこちら。上で述べたとおり、その教科書が指定された理由は様々である。あなたが受ける授業とその教科書がどのような対応関係にあるのかを、教科書の目次、講義担当者が示しているシラバス(講義進行予定表)、そして対応する法令の条文とつきあわせて見ておく必要がある。

授業のシラバスと教科書の目次

目次とシラバスをつきあわせてみると、授業での順番と教科書の目次の順番は、必ずしも一致するとは限らないということに気がつくだろう。また、講義で扱う範囲とその教科書が扱う範囲とが一致していないこともある。もし講義担当者が教科書の対応ページを示しているならばそれに従って、そうではない場合はキーワードに着目して、どのように対応しているのかを調べておこう。これは、「体系」について講義担当者と教科書執筆者が同じように考えているのか、そうではないのかも含めて見ておく方が良いだろう。
…とはいえ、まったくの初心者の場合はそこまではわからない。「どの時期にどこを講義するつもりなんだろう」くらいでかまわないので、見ておいて欲しい。

条文と教科書の関係

ついつい忘れがちなのがこちらの確認。学生に「教科書を読んでおいてね」と伝えると、教科書だけを読んできてしまうことがある。たいていの実定法科目は、対応する法令があり、それらにも「目次」「体系」がある。教科書の記述はどの条文のどのような文言を前提に書かれているのかを確認する癖を付ける必要がある。そのためにも、教科書はどの範囲の条文を扱おうとしているのかを学習用六法で最初に確認しておいてほしい。

おわりに

第2回【前編】冒頭の疑問(すべて学部時代の自分が考えたことである)に対して答えると、「教科書は高くても買わなきゃダメだし、買った以上は元取るつもりで活用しようね」という…極めて教員っぽい答えになってしまった。そうなると次は当然、「活用するならばどういうやり方があるの?」という疑問がわいてくる。第3回は、法学学習のインプットについて語ろう。教科書は、「薄く広く」読む読み方と、「狭く深く」読む読み方と、両方の読み方ができるからこそ手元に置いておく価値がある。

第2回【後編】のまとめ

  1. 教科書にそって進める講義もあれば、教科書と対決する講義もあるし、自作教材メインの講義もある
  2. あっちこっちに張られたリンク(内容のつながり)を確認するために、事項索引等を活用する
  3. 授業予定と教科書の体系と、さらに条文との対応関係をつかんでおく

*1:むしろ、多くの体系書・基本書・テキストはそのように制作されている。

*2:2013年担当講義は原田尚彦『行政法要論(全訂第7版補訂2版)』(学陽書房、2012年)。翌年は同書が絶版となってしまったために、宇賀克也『行政法』(有斐閣、2012年)を指定した。本書が同著者執筆の体系書(「3冊本」と俗称することがある)を踏まえて執筆されていることについては第2回【前編】で説明したとおりである。

*3:見覚えのある記載やその脚注からたどることで、難しい課題に挑むときにも資料にアクセスしやすいだろうと考えた。

*4:詳しくは第3回で扱う予定。

*5:たとえば、石川敏行・藤原静雄・大貫裕之・大久保規子・下井康史『はじめての行政法(第3版補訂版)』(有斐閣、2015年)では、文中に頻繁にキーワードリンクが張られている。たとえば、「行政契約(→~頁)」といった具合である。また、巻末に「全体の見取り図」と称した付録もついている。まえがき・あとがきにも同種の工夫がみられる。そこで第2回【前編】最後に示した「入門書」として、行政法履修者に強く薦めている。

Copyright © 2015 KOUBUNDOU Publishers Inc.All Rights Reserved.