第5回後編:ぱうぜの3色ボールペン法~自分なりのインプット法実践編

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前回のおさらい

第5回【前編】では、法学学習の6ステップを踏まえた上で、自分なりのインプット法を見つけよう、という話をした。私が学部3年生のときに始めた、3色ボールペンを使ったインプット法も、そのひとつである。今回は、前回紹介した「ルール」を実際の文章でやってみるとどうなるのか、それにはどのような狙いがあるのかを解説していく。
もちろん、これは筆者の個人的な方法であり、全ての人に最適な勉強法だとは考えていない。それでも、あなたなりのやり方を見つける一助になれば幸いである。

「ぱうぜの3色ボールペン法」のルール

それでは、実際の例に移る前に、もう一度ルールをおさらいしてみよう。

1)用語を覚える

大事な用語が出てきたら、青、赤、黒を使い分け、楕円形や長方形で囲む。
用語の定義に当たる内容は、同じ色で下線を引く。
階層構造がある場合は、色や囲む図形を統一することで、どのレベルが共通しているのかがわかるようにする。

2)論点を覚える

問題点や論点が出てきたら、赤字で「Pを○で囲んだマーク(マルPマーク)」をつけて、論点だとわかるようにする。
通説的な見解や最高裁判例は黒、
それに対する反対説は赤、
自分が取ろうと思っている見解は青で下線を引く。
特に、それぞれの対立点になっているところは強調する。

実際にやってみよう

前回あげた「教科書」風文章は、WordではちょうどA4一枚分である。より「教科書」っぽい見た目にするため、書き込み前のものを画像として再掲しておこう。
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これを印刷して、「教科書」に見立てて3色ボールペンで色づけをしてみると、以下のようになった。
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いかがだろうか。以下では、前半については「用語と用語の相互関係を覚える」という観点で、後半については「論点に対して議論を整理する」という観点で、三色に塗り分けるときにどのようなことを考えたのかをコメントしていく。

前半:行政法総論と行政法各論、行政法総論の内容

前半は「行政法」という科目では何を扱うのかを説明した部分である。いきなり「行政法各論」と「行政法総論」という見慣れない言葉が出てくるが、それぞれが説明されている箇所があるので、そこは「定義」にあたる内容としてそれぞれ対応する「用語」と同じ色で下線を引いた。なお、用語については楕円や長方形で囲むほか、括弧( )や亀甲括弧〔 〕も使いつつ、階層的な分類を試みた。
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「用語」を見分ける

この3色ボールペン法は、まず第一に「用語」とその「定義」を意識するところがポイントである。第5回【前編】で述べた通り、この色づけの作業を行うタイミングが二度目に読む段階である以上、なんとなく「この単語は何度もみたような・・・」というものが増えているはずである。また、講義などで先生が繰り返し説明しそうな単語(=キーとなる用語)というのもだんだんつかめてくる*1。そして、その前後にはその用語がどのような意味で使われているのか、別の用語とはどういう観点で区別されているのかが示されている(ことが多い)。そこを共通の色で塗ることで、関連づけをつけていくのである。

用語の相互関係や階層構造を見抜く

そして、用語がただ並列に並べられているのか、ある語の具体例として出てきているのか、ある語の下位に属する言葉なのかというような、用語間の相互関係も考えていく。これは一読するだけではよくわからないこともある。場合によっては、読んでいる箇所が目次上どのように位置づけられているのかを確認しながら考えることもある。今回は一ページ内で入れ子構造がわかりやすくなるように文章を調整したが、場合によっては数ページにわたる箇所をまとめて考えたほうがよい場合もある。

「整想」のアウトラインを意識する

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何が覚えるべき「用語」なのか、その定義は何か、そして相互関係はどうなっているのかがつかめてくると、頭の中にはアウトプットの2ステップ目である「整想」段階のアウトラインに対応するような、階層構造がみえてくる。前半部分をその階層構造として記述したのが上図である(一部、足りない語を補ったり、省略した)。「虫の目2周目+鳥の目3周目」の段階では、このようなアウトラインを頭の中に構築できているかどうかを確認しながら読み直してみると良い。
このアウトラインは、もし試験問題の内容が「行政法の体系について論ぜよ」というような一行問題であれば、そのまま「整想」のアウトラインとして機能する。もし、「行政法総論という言葉の位置づけについて、あなたの行政法理解と位置づけて書きなさい」というひねった出題になったとしても、このアウトラインを思い浮かべながら、途中の文章で出てきた「行政作用法のことを行政法総論という言い方もある」ということを踏まえてアウトラインを組み直せば、成果物としての文章はきちんとした順番になるはずである。このように、「アウトラインのために機能するインプット」であるかどうかを確認してみると良いだろう。

後半:「情報公開・個人情報保護」をどこで論じるべきか?

後半は、比較的新しい項目である「情報公開・個人情報保護」を、行政作用法のなかでどこに位置づけてどのくらいのタイミングで教えるべきであろうか、という点について書かれたものである*2
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対立点を見抜く

この「後半」の文章は、一見すると何がこの問題のポイントなのか、各論者がどのような意味で対立しているのかがつかみにくい。数回読むと、どうやら筆者が気にしているのは、「情報公開・個人情報保護」という項目がどのような意味づけを持つべきなのかという点と、それを行政作用法の中でどのあたりの順番で教えるべきかという点にあるようだということがわかってくる。
そして、情報公開法が出来る前から行政法総論の体系を構築していた原田尚彦先生の体系書ではそれを「行政の予備活動」と位置づけているところ、近年の入門書である『はじめての行政法』では「透明性確保」という意味で、違う位置づけになっている。ただ、それゆえにかなり前のほうに来てしまっているのを、筆者は気にしているようだ。
このような思考を踏まえて色づけをしておくと、たとえば「情報公開の意義とは何か」というような一行問題が出たときに、「行政の予備活動」としての側面と「透明性確保としての行政コントロール」という二つの側面を記述できるようになるだろう。また、この「教科書」(おそらく、この文章は一般的な教科書の序章に当たる部分に掲載されるような内容である)はかなり意図的に記述の順番を決めているということも、読み取れるだろう。
このように、「ここが問題だ」というように、論点として意識されている記述に対しては、何が対立点なのか、どのような理由でどのような結論にそれぞれの説が至っているのかを踏まえて、追体験するように覚えていく必要がある。

理由付けに納得できるか?

今回は書き込んでいないが、この「論点を覚える」ときに重要になるのは、「自分の言葉で書き直せるか」である。著者は一応の理由をつけて一定の立場を取っているけれども、それは本当だろうか。「著者の言いたいこともわからなくもないが、批判されている説にも説得力があるのではないか?」などと、自分の頭で追体験してみたときに感じた疑問は、それとなくメモしておくと良い。
これは一読するだけでは出てこない視点かもしれない。「虫の目」1周目として最後まで三色で塗り分けてみた後で、マルPマークを付けたところ(問題点、論点)だけをもう一度再読してみたとき、すなわち「虫の目」2周目などにチャレンジしてみるとよいだろう。
あなたが納得できなかったところは、あなたの理解が間違っている可能性もあるけれども、良い着眼点であるということもある。そんなときは友人や教員に相談してみて、より深い理解に行き着くようにしてみよう。

あなたなりのインプット法を見つけよう

以上、「ぱうぜの3色ボールペン」のやり方を実践してみた。いかがだっただろうか。このやり方でしっくりくると感じた私は、まずは得意科目の行政法民法からはじめ、その後苦手科目にも広げていった。
また、教科書だけでなく、自分や友人のノートを寄せ集めてつくったまとめノートにもこれが使えることがわかってから、どんどん勉強が面白くなっていったのを覚えている。

自分なりのインプット法を見つけるメリット

自分なりのインプット法を見つけるメリットとして、「このやり方でやればイケる!」と信じることができるようになる、という点があげられる。得意科目で成功したのだから、苦手科目もなんとかやってみよう、と自分の背中を押すことができるようになる。
また、やり方自体についても習熟していけば、(すでに前回も述べたとおり)再度その分野に挑むときに、過去の自分のつけた道しるべがうまく使えるようになっていく。実際、私も学部の定期試験前(学部3年生)に色づけした教科書を、法科大学院の試験対策時(学部4年生)に読み返すことで、より早く思い出すことができたと思う。
いずれにしても、信じるやり方で最後まで一旦やってみる、走りきってみるということが重要である。「せっかく全体の8割やったんだから、最後までやってみよう」という気持ちになりやすいのもメリットであろう。

マネでもいいからやってみる

もし、まだあなたなりのやり方が見つからないのであれば、ぜひ、今回紹介したやり方をベースにしてみていただきたい。お手元のペンを使って、既に学習が終わった科目(たとえば、こないだ定期試験を受けたばかりの科目)について、やってみよう。試行錯誤していくうちに、「自分だったらこうするな」というやり方が見つかるかもしれない。
なお、教科書というのは、法改正や学説・判例の動向を踏まえておおむね3、4年に1回程度のペースで改訂されることが多いので、そのタイミングで買い換えることになると思っておいたほうがよい。逆に言えば、「もったいなくて書き込めない」という人がいるかもしれないが、「どうせ改訂版が出れば買い換えることになるのだから、今のうちに使い倒しておこうよ」というアドバイスを贈りたい。

次回予告

定期試験がらみの話題が続いたので、第6回はそれらから離れた内容にしたい。このブログ、タイムリープカフェは「10年前の自分に語りかける」ブログである。今から振り返ってみると、学部4年生の頃には見えていなかったことがたくさんある。とりわけ、「行政法のプロ」になろうとしていた私は研究者の道を選ぶことにしたのだけれども、「行政法のプロ」は学部生が考える以上に幅広く存在していることに驚かされた。このように、「学部生の頃には見えていなかったもの」は、進路選択にも大きな影響を与えている。学部生からロースクール生になってみえてきたもの、行政法研究者になってからようやくわかってきたことについて、語ることとしよう。

第5回【後編】まとめ

  1. 用語とその定義をセットにして覚えよう
  2. 用語ごとの相互関係や階層関係を見抜き、アウトラインを意識する
  3. 論点については対立点を見抜いて、自分の頭でも考えて追体験してみよう

*1:ちなみに、この作業を本当に「試験二週間前」にやっているようではかなり危ない。思いついたときがたまたまそのタイミングだったというだけであり、通常は講義を聴いたあと、その復習と併せて行うのがよいだろう。

*2:本来ここまで強調して述べるべきではない「違い」だが、今回あえて「争点」のような記述に対してどのように塗り分けるのかを示すために強調して書いたということをお断りしておく。

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