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第11回前編:科目を越えたリンクを自分で見つけてみよう

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「対話で研究する行政法

本連載も残すところあと2回(4記事)分となった。「もしも10年前の自分たちにちょくちょく出会うとしたら、どんなことを伝えるか?」という本ブログの趣旨を考えると、最後にぜひ伝えておきたいことがいくつかある。今回は私が研究者を志すことのきっかけとなった書物を紹介したうえで、そこから、法学学習者に心がけてもらいたい「異なる法学科目同士や関連社会科学科目との間でのリンクの張り方」、より一般的には「対象と手法の掛け合わせ」についてお話しすることとしたい。

学部3年生のときに出会った、人生の転機となる本

まず、私が開講しているゼミナール(横田ゼミ)の募集要項をみてほしい。

横田ゼミは「対話で研究する行政法」をテーマとし、最終的には自分で主体的に約3万字の卒論を書くことを目標とします。「行政法で3万字?」と尻込みするかもしれないですが、議論をするための基礎トレーニングから徐々にステップアップし、着実にプロジェクトを進める力を養いつつ進めていきます。ゼミ構想についてはこちら。http://togetter.com/li/573023 行政法Ⅰを受講中であり、行政法Ⅱを受講する予定であることが必要です。他領域の研究者や弁護士、公務員等のゲストとの対話も行います。必ずメールでガイダンス参加を申し込むこと(このメールも選考に含まれます)。総合的な力を高めたい真摯でチャレンジ精神のある学生の参加を心待ちにしております。

この募集要項にあるように、私のゼミのサブタイトルは「対話で研究する行政法」である。これは、私が学部3年生の冬休みに手にとって、強く影響を受けた書籍である、宇賀克也・大橋洋一・高橋滋(編著)『対話で学ぶ行政法 行政法と隣接法分野との対話』(有斐閣・2003年)をモデルとしたものである。同書は、法学学習者向けの雑誌「法学教室」での企画連載をまとめ、加筆修正されたものである。その特徴は、編者でもある行政法研究者が各回のホストとなり、憲法民法民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法、商法、労働法の研究者とともに、行政法とそれらの法領域とを跨ぐテーマで対談をしていることにある。刊行元である有斐閣のサイトから目次を引用すると、次の通りである。

第1章 「行政法規違反行為の民事上の効力」…山本敬三&大橋洋一
第2章 「法の一般原則」…中田裕康&大橋洋一
第3章 「行政立法」…毛利 透&大橋洋一
第4章 「行政行為」…河上正二&大橋洋一
第5章 「行政上の義務履行確保」…高田裕成&宇賀克也
第6章 「行政罰」…川出敏裕&宇賀克也
第7章 「行政手続」…松井茂記&高橋 滋
第8章 「情報公開・個人情報保護」…長谷部恭男&宇賀克也
第9章 「行政事件訴訟法」…山本和彦&高橋 滋
第10章 「国家賠償法」…大塚 直&宇賀克也
第11章 「損失補償」…棟居快行&宇賀克也
第12章 「行政組織」…大石 眞&大橋洋一
第13章 「地方自治」…渋谷秀樹&高橋 滋
第14章 「公務員」…川田琢之&高橋 滋
第15章 「公 物」…松岡久和&大橋洋一

この本に出会ったことで、私は行政法という科目が、今まで学んできた憲法民法・刑法・商法・労働法とどのようにつながっているのか、そして当時学ぶ途中段階であった民事訴訟法や刑事訴訟法とはどのような関連があるのかが少しだけわかるようになった。そこから行政法が面白くなり、他の法学科目も行政法との関連を付けながら学ぶことで楽しくなっていき民事訴訟法と行政法の対話としてこの本の第9章でも取り上げられている、行政事件訴訟法をテーマに研究者としてのキャリアをスタートすることになったのである。
一つ例を挙げると、この本の161頁では、民事訴訟法学者の山本和彦先生と、行政法学者の高橋滋先生が、行政訴訟株主総会決議取消訴訟をテーマに、その類似性を指摘した上で行政事件訴訟法10条1項の制限は株主総会決議取消訴訟では対応するものがないことについて議論をしている。

行政事件訴訟法10条1項 取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない。

取消訴訟の訴訟物(審理の対象)は、一般には「当該処分の違法性」と考えられており、一見、原告はその処分に関係のある違法事由をすべて主張できるようにみえる。たとえば、産業廃棄物最終処分場の設置許可が問題なら、原告(周辺住民)は自分の健康に関係があるという意味で問題になる「施設の安全性」だけでなく、その業者がきちんと経営ができるかどうか(この許可については「経理的瑕疵がないこと」が廃棄物処理法やその下位法令で許可要件となっている)についても主張できそうである。しかし、この10条1項があるために、「自分の利益とは関係のない」違法事由については主張することができない。上述の例では、「経理的瑕疵」に関連する議論が、「自己の利益と関係」があると言えるかどうかが問題となりうる。他方、商法(会社法)の株主代表訴訟における株主総会決議取消訴訟には、「自己の法律上の利益に関係のない違法」というような制限はかかっていない。こちらも、審理の対象が「当該決議の違法性」であるにもかかわらず、である。
法学部3年生のとき、商法と行政法を学ぶ時に「この二つ、『違法性』が対象になっている点では良く似ているなあ」となんとなく考えていたことが既に指摘されているばかりか、その先にさらに発想の種があることに、とても驚いた*1
また、同書の魅力はもう一つある。それは、対談の前半は学習者向けの確認的な内容が、後半はとても高度な議論が展開され、「研究者の発想とはここまで及ぶのか」と驚かされることである。例えば、第4章「行政行為」では、対談の冒頭、民法学者の河上正二先生が、学生のころに行政法を勉強したきりで、それ以後はまともに行政法を勉強していない、と述べたうえで、そんな人にもわかるように「法律行為と行政行為」の違いについて教えて欲しい、と大橋洋一先生に語りかけることから議論がスタートする(54頁)。大橋先生がそれを受けて学習者にもわかるように丁寧な解説を行い、それに対する学習者側の疑問を河上先生が発して・・・と、さらに応答していくうちに、議論はどんどん難しい方向に進んでいくのである。
さらに各章の末尾には、より深く勉強や研究をしたい人のために、両方の法領域についての基本書・教科書だけでなく、関連する研究書や論文集、論文等の参考文献が20件以上掲載されている。2003年に発刊された本ではあるものの、今現在このテーマについて研究するためには読み落とせない文献ばかりである。前半部分は学習者でもなんとかついていけるけれども、後半部分は正直いって難しい。しかし、なぜそのように発想したのかは、どの先生も丁寧に語っているのである。どうしてもわからなければ、本文で掲げられた文献や参考文献をひもとけば、何かわかるかもしれない・・・そんな気持ちにさせてくれる本であった。
このように、『対話で学ぶ行政法』という本は、私が行政法をより深く学ぶきっかけになったと同時に、大学卒業後の進路を考え始めていた自分に、「私ももっとこんな"リンク"を見つけてみたいなあ」という気持ちを強く植え付けた本でもあった。そのためには何になるのが一番良いのか・・・それは行政法の研究者だ。そう考えた私は、研究者への道を本気で志すようになった。

『対話で学ぶ行政法』からヒントを得たリンクの見つけ方

ここで今一度、『対話で学ぶ行政法』がとったリンクの見つけ方を整理してみよう。目次をみていただければわかるように、各章で取り上げられているテーマは、いずれも行政法の教科書に必ず載っている重要な項目である。しかし、いくつかの項目では、行政法の議論の出発点として、別の法領域での議論があることが指摘されている。他方、行政法学もその後に独自の発展を遂げていることから、実際に双方の現代における議論をお互いにつきあわせてみると、相違点や疑問点が出てくる。
これは、行政法に限った話ではない。同時期に読んだ佐伯仁志・道垣内弘人『刑法と民法の対話』(有斐閣・2011年)では刑法学者の佐伯先生と民法学者の道垣内先生が「不法原因給付」や「占有」などについて、お互いがお互いを教えつつ、とても高度な議論までたどり着くという対談を行っているし、各種の雑誌では、時事に即して専門家同士が対談する企画が展開されている。これらの企画に共通しているのは、「基本的な事項であっても、突き詰めて考えていくと、その先には別の法領域での議論がつながっている」ことに気づかされるということである。

対象と手法の掛け合わせ

法学科目同士でのリンクの見つけ方は、他にもある。それは、対象と手法を掛け合わせるというものである。

「縦割りの科目と横割りの科目」

次は、私が担当している「環境法」の講義第1回*2のレジュメに掲げた図を見ていただこう。
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この図は、講義を受講する3,4年生が今まで学んできた法学基本科目(横糸)と、これから学ぶ応用科目(縦糸)との関係を示した図である*3。応用科目のうち、労働法社会保障法、環境法、消費者法、情報法などは、いわば「領域ごとの法分野」である。つまり、法が適用される対象の特徴に即して、法制度のあり方を学ぶ科目である。これに対して、いままでの基本科目は、いわば「手法」であり、法がどのような考え方との関わりで成り立っているのかを示しているもの*4である。
応用科目を学ぶ者は、いままで憲法民法・刑法・・・と分かれていた知識を、ある特定の領域、たとえば環境法であれば、「環境」というフィールドにおいてどう使いこなすのかが問われている。例を環境法に即してあげてみると、公害の被害者から原因企業への損害賠償は民法不法行為法である(実際、不法行為法で学ぶ「共同不法行為」や「疫学的因果関係」などは、公害訴訟での議論が下敷きになっている)。また、廃棄物処理法に基づいて許可を出したり自ら廃棄物回収を行う地方公共団体の立場は、行政法である。また、許可を得ることなく廃棄物処理施設等を操業した場合には刑事制裁が科せられている。そして、これらが訴訟になれば、民事訴訟法、刑事訴訟法での議論が問題になることがある。因果関係の証明責任などは、被害を受けた住民と、実際に工場内部等までよく知っている原因企業とが争い、原告・被告間の情報格差が存在する公害訴訟では、常々問題になっているところである*5
また、情報法であれば、インターネット上の言論について、憲法で学んだ「表現の自由」や通信の秘密等が問題になるだけでなく、各種事業者の約款(利用規約)による規制や調整という観点からすれば、民法の知識も重要になる。また、しばしばネット上の書き込みによる名誉毀損やプライバシー侵害等が問題となることがあるが、それは民法・刑法の双方でその救済や制裁が考えられることとなる。そして、通信事業等を所管する行政機関の役割もまた期待され、行政法の知見も必要となる・・・といった具合である。その他、競争法や知的財産法、消費者法など、他の応用科目での議論も問題となる複合領域である。
情報法という分野に親しみがない方向けに、曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説』(弘文堂・2015年)の目次を刊行元の弘文堂ウェブサイトから引用すると次の通りである。詳細目次もリンク先にあるので、興味がある方は一読していただきたい。

第1編 総論
 第1章 情報法とその基本理念
 第2章 情報法の規律方法

第2編 情報流通の基盤
 第3章 通信と放送
 第4章 情報基盤をめぐる競争と規制
 第5章 媒介者責任

第3編 個人情報の保護と情報セキュリティ
 第6章 個人情報保護
 第6章補論 情報セキュリティ

第4編 違法有害情報
 第7章 わいせつ表現,児童ポルノ
 第8章 青少年保護
 第9章 名誉毀損・プライバシー
 第10章 著作権侵害

第5編 電子商取引
 第11章 電子商取引と消費者の保護
 第11章補論 携帯電話取引と消費者をめぐる課題
【事項索引・判例索引】

環境法や情報法を学ぶにあたっては、今までの基本科目での知識を、実際の社会問題に当てはめていくことが問われている。それだけでなく、「どんなルールを作れば適切な法執行までいけるのだろうか」「行政と市民の役割分担はどのようなものがあるだろうか」なども、単なるお題目や理想論ではなく、本当に社会のなかで機能するような形で考えていかなければならない。
一度「横割りの科目」である基本科目を学んだあと、縦割りの「領域ごとの応用科目」を学び、そしてもう一度「横割りの科目」の学習に戻っていく・・・そんな往復運動をしていくことで、法と社会のかかわり、法学を学ぶことの意義を再確認してもらえれば幸いである。

次回予告

次回は、法学だけでなく、他の関連する社会科学領域との間でもリンクを張ってみよう。私が千葉大学政経学部に着任してから考えた、法学研究者からみた、法と経済と政策の関係について、学生視点ではどのように考えることができるのかを述べることとしたい。

第11回【前編】まとめ

  1. 基本科目の基本的事項も、突き詰めて考えると他の領域につながっている
  2. 異なる領域の専門家同士の対話では、基礎の確認から最先端の議論にまで広がっていく
  3. 対象と手法を掛け合わせることで、学んだ内容を実践的に考えてみよう

*1:なお、この話にはさらに続きがある。後に当時から関心を有していた行政事件訴訟法10条1項について執筆する機会が与えられたのだ。これは個人的にとても嬉しかった(横田明美「取消訴訟の審理」高木光・宇賀克也(編)『行政法の争点(新・法律学の争点シリーズ8)』(有斐閣・2014年)122-123頁)。なお、産業廃棄物最終処分場の設置許可に関連して本文中で示した議論(周辺住民が経理的瑕疵まで主張可能かどうか)が争点となった千葉地判平成19年8月21日判時2004号62頁についても、拙稿で取り上げた。

*2:2014年度の環境法第1回講義は、なんと台風のため休講になってしまったので、講義時間とまったく同じペースでTwitter上の「模擬講義」を行った。
台風の #休講ニモマケズ 環境法初回講義(横田明美 @akmykt) - Togetterまとめ 
内容が気になる方は参照していただきたい。

*3:なお、色の濃さは関連度を示している。私自身が主観的に感じているものなので、だいたいの目安であると考えていただきたい。

*4:この図によく似たものとして、中川丈久「行政法における法の実現」佐伯仁志(編)『岩波講座現代法の動態2 法の実現手法』(岩波書店・2014年)111-154頁の112頁・図1法実現手段の複層性がある。中川論文での図は、縦糸としては「政策目的による法領域」として環境法、土地法・都市法、競争法、消費者法、知的財産法、税法、各種の業法・・・が並び、それらを横串にする横糸として、「政策目的の実現手段(手法)」が刺さっている。それは、行政法(行政手法)、民事法(民事手法)、刑事法(刑事手法)である。

*5:環境法の学習について、「対話」をする機会に恵まれた(これも大変嬉しい出来事だった)。北村喜宣『環境法(有斐閣ストゥディア)』(有斐閣・2015年)についての著者との対談である。
北村喜宣・横田明美「【対談】自著を語らせる―― 環境法教師からみたストゥディア『環境法』」(書斎の窓2016年1月号(643号)4-10頁と同内容が全文公開されている)
同書は法学未習者向けの環境法入門として執筆されており、その点からも興味深い。詳しくは対談で語ったほか、次回(第11回【後編】)、法と経済と政策との関係を考えるために取り上げる予定である。

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