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第10回後編:自分の時間を可視化することが時間管理・体調管理の第一歩~法科大学院に進むあなたに

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進学2ヶ月後の体調不良を引き起こさないために

前回(第10回【前編】)は、「法科大学院進学後2ヶ月の間に、体調を崩す人が多い」という話で締めくくった。その理由は、法科大学院での「予習・復習」には、法科大学院自体の講義のための予復習(動的視点(横糸))に取りかかるよりももっと手前の段階、すなわち基礎知識(縦糸)の学習の隙間を埋める学習まで含まれていることに入学後気がついて、そのために手が回らなくなってしまうからである。

第10回【前編】についての二通りの感想

この話を書くと、大きく分けて2つの反応が返ってきた。

1)まだまだ自学が足りない――時間管理の必要性

1つは、「今の法科大学院生はそこまで自分を追い詰めるほど自学をしているのだろうか」という疑問である。これは、現在法科大学院で指導をしている先生方からいただいた。なぜそのように感じるのかと理由を聞いてみたところ、「院生と話をしていても、『教科書を3周読んできた』という割には、基礎的な用語や概念が頭に入っていないようで答えられない場合が多い」というコメントや、「自分が『受験生』である、というモードに入っておらず、いつまでも受け身で『教えてもらう』という意識が抜けていないように感じる」という先生もいた。
このようなコメントの背景を(まだ法科大学院の講義は担当しておらず、また法科大学院を修了してからもう8年経ってしまった身なので、やや外れているかもしれないが)私なりに検討してみると、やはり、基礎知識の学習が足りていないことに起因すると思われる。1つめのコメントのように、院生本人は学習しているつもりでも教員にはそれが伝わらない(おそらく、身についていないということ)という悲劇を回避するためには、インプットとアウトプットを行き来した自学をするという、既にこの連載で繰り返し述べてきた観点を取り入れてもらうしかないだろう*1
第5回前編:6ステップを踏まえて自分なりのインプット法を見つけよう - タイムリープカフェ
インプットだけでなく、アウトプットも行ってさらにインプットのやりかたをみつけよう


つまり、法科大学院2年生(未修2年目・既習1年目)においても基礎知識を補うための自学はまだまた必要であり、しかも講義の予習・復習と並行して行わなければならないのである。学部生とは異なり、法科大学院生はまったく時間が足りない。

2)徹夜で乗り切ろうだなんて無理――体調管理の必要性

もう一つの反応は、法科大学院修了生や、修了した後に法曹や研究者になった人たちからのコメントであり、「私も同じように法科大学院在学中に体調を崩しました」というものである。体調の崩し方は人それぞれで、既習1年目の前半に入院したという人や、体だけでなく心の調子を崩したという人、また目立った体調不良は無かったが体重が激減・激増したという人もいた。真面目にやろうとすれば、どこかで壁にぶつかってしまう。また、司法試験の受験や将来に関する不安から、精神的に疲労し、押しつぶされそうになることも多い。
様々なケースを聞いていると、私自身も該当する「法学部からそのまま法科大学院に進学した」人に共通する問題が浮き上がってきた。それは、「いつまでも若くないにもかかわらず、若さと気合いで乗り切ろうとしたこと」である。大学の学部からそのまま進学した場合、法科大学院既習1年目のときには22歳から24歳くらいのはずであり、まだ自分は若いつもりでいるのだけれども、だんだん無理がきかなくなってくる頃である。20歳くらいの頃は徹夜をしてもなんともなかったことから、睡眠を削れば何とかなる、と考えがちでもある。
しかし、勉強すべきことはどんどん増えていく上、睡眠時間や食事・休憩の時間を削ろうにも限界がある。例外的に短時間睡眠でも平気だという人もいるが、そのような人は太りやすくなってしまったり、気がつきにくいリスクを抱えていることもある。法科大学院生にとっては、体調管理も重要な課題である。

時間管理・体調管理も「自分で学ぶべき」こと

そこで今回は、時間管理・体調管理の必要性を踏まえ、その実践方法について語ることとしたい。冷静に考えてみれば、法科大学院に進学せずに就職した場合、22歳~24歳という年代は「社会人一年目~三年目」の段階である。そこでは、仕事の内容そのものだけでなく、仕事の進め方や自分の時間・体調の管理も働きながら身につけなければ、ステップアップしていくことができないと思われる。それと同じで、法科大学院生も、単に法曹になるための学習をするだけでなく、法曹になってから一人前の「仕事」をするための時間管理や体調管理の方法を身につけなければならない*2。膨大な予習復習負担は、「仕事」をする人間としての基礎的素養を身につけるための試練でもある。
しかし、このようなことはなかなか教えてもらえるものでもないし、人によって生育環境や体質等が違うため、万人向けの方法があるというものでもない。そこで、以下では時間管理・体調管理というものを考えたことがあまりない人むけに、ごくごく初歩的な事柄だけを、法科大学院に通学している人を想定して記述することにしたい。これを出発点にして、「自分なりの時間管理・体調管理方法」を作り上げるためのステップを考えていただきたい。なお、「やることを管理する」という意味で、一般には「タスク管理」という言葉もよく用いられている。

時間管理の基本~自分が使える時間の枠を一週間単位で書き出そう

自分が担当している学生が忙しそうにしているとき、私が必ず尋ねる質問がある。
「手帳はどんなものを、どんな用途のために使っていますか?」
これに対する答えは様々で、最も多いのが、月間ブロック(マンスリータイプ)の手帳に、興味のあるイベントやレポート・提出書類の締切り等を書き込んでいるという返答である。これには、スマートフォン等のカレンダーアプリで予定を管理している人も含まれる。これは、人との約束を忘れないために手帳を使うという考え方である。
しかし、ここで用意してもらいたいのは、一週間の時間を見開きで管理できる週間(ウィークリー)タイプの手帳で、しかも時間軸が縦(バーチカル)に配列された手帳である。このような形式を、ウイークリーバーチカルタイプという。
学生にも手に取りやすい値段(500円~1000円)の手帳としては、コクヨのキャンパスノートを手帳化した「キャンパスダイアリーシリーズ」や、成美堂出版の「プラチナダイアリー・プレステージ」などがある。ウイークリーバーチカルタイプの手帳のイメージがわかない方は、以下のリンク先で確認していただきたい。
商品ラインアップ|コクヨ ダイアリー2016|商品情報|コクヨ ステーショナリー
コクヨのキャンパスダイアリーシリーズの一覧です

破格にお得! 「プラチナダイアリー・プレステージ」(成美堂出版) #bungu #techo #手帳: 館神blog
手帳評論家の館神龍彦氏によるブログでも紹介されています


もし、手帳を買うお金がないという人や、とりあえずお試しでやってみるという人は、一冊ノートを用意して、自分で線を引くだけでもよい(実際、そのように試してみた学部生もいた)。
このウイークリーバーチカルタイプの手帳を、他人との約束を守るために使うのではなく、「自分の時間を可視化する」ために使おう。

自分の時間を可視化してみよう

この一週間の予定表に、まずは自分がどうしても出なければならない予定(もともと手帳などに書き込んでいた他人との約束)を書き込んでみよう。そのうえで、「絶対にやらないといけないが、やる時間が決まっていないこと」も、欄外に書き出してみよう。できれば、だいたいこれくらい時間がかかるという見積もりを立てて、その幅のふせんなどを活用するとよい*3
実際に、自分が既習者コースに入学した直後に考えていた時間割を書き出してみると、次のようになった。
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ややバイトにかける時間が多いように思われるかもしれないが、当時の私は、学費を貸与奨学金でまかなっていたし、博士課程進学をすればさらに社会人になる時期が遅れ、貸与奨学金を受け続けることになるのだから、少しでも多く稼いでおく必要があると考えていた*4
また、見慣れない「ドイツ法」とそれに対応する「ドイツ語文献翻訳」の欄がある。これは、当時から博士課程への進学を検討していたために取っていた演習科目であり、行政法のドイツ語文献を読むゼミであった。
さて、それではこの見通しはどうなっただろうか。欄外に書いた、「授業のための自学として必要な時間」がどうなったのかも含めて書き込んでみよう。
ゴールデンウィークが明けて自分が倒れることになった直前のスケジュールはひどいことになっている。実際には青い項目の「○○復習」は、1時間枠では収まらず、2時間ほどかかることも多かった。ドイツ法のゼミ(ドイツ行政法文献講読演習)についても、予習が何時間も必要であることがわかり*5、火曜日は帰宅後ほぼ徹夜をして翻訳をするはめになってしまっていた。「憲法」、「民訴」や「刑訴」など、他の講義の予習も一筋縄でいかないことがわかった。要するに、当初見込みの倍くらい自学の時間が必要であり、さらにそれらに加えて実務科目のレポートなど、想定以上に時間がかかる課題もあることが追い打ちをかけた。

実際の活動時間はどうなっているかを記録してみよう

そのため、実際の活動時間は以下の図のようになってしまっていた。
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いま冷静にこの時間割をみると、明らかにバイトに時間をかけすぎである*6し、司法試験のための勉強(択一問題を解くなど)にまったく時間を割けていないことがわかる*7。特に、赤字で書き込んだように、教員に授業後質問をする時間が必要だったり、無理がたたって寝坊してしまったり、自学に時間がかかったりと、人は計画通りに動くことはできない。特に「無理がたたって寝坊」することからも、どこかできちんと休まなければならなかったことがわかる。
今の目でこのスケジュールを修正できるだろうか、としばし考えてみた。まず、眠る時間と起きる時間は一定にすべきだし、火曜日の夜など、いくら予習が終わらないからといってドイツ法の予習のために遅くまで粘って3時間睡眠にしているのはやりすぎでしょ・・・と過去の自分に言いたいことはたくさんあるのだけれども、当時は「予習だって終わらないし、学部のときに全部終わってなかった科目の復習もやっとかないとついていけないし、ほんと、どうしていいのかわからないよ!!」と考えてしまっていた。
しかし、このスケジュールでは長くは続かないうえ、必ずどこかで健康を害してしまうので、予習にメリハリをつけるなど「手抜き」をするか、そもそも長い通学時間そのものをどうにかする(通学時間に電車内で座って予習ができるように、乗る路線やタイミングを変えてみるなど)など、もっとやり方があったように思う。
また、予習復習に多くの時間がかかってしまっていたこと自体も見直す必要があった。その原因の一つに、ノートの取り方があまり安定していなかった点がある。当初はすべて手書きでノートをとっていたところ、社会人経験があるクラスメイトの勧めもあって途中からパソコンでのブラインドタッチでのノートテイクに切り替えた。すると、自分が予習した内容と講義内容の復習とを結びつけることがしやすくなったので、予習と復習にかける時間が圧縮できるようになった*8。このことは法科大学院の講義を受けるうちに試行錯誤して身につけたことだが、学部のうちから少しずつ練習しておけばと後悔したことでもある。

理想と現実のギャップを可視化する

このように、実際に書き出してみるだけでも、それ自体が「時間管理」・「体調管理」の作業になることにお気づきだろうか。「いま冷静にこの時間割をみる」という、この振り返りの視点を持つことができれば、自分の行動予定を見直すことができる。難しい道具は要らない。手帳、あるいはノートと、「書き出してみる時間」さえあればいい。私自身はこの作業を、夕食の時間(外食であれば、注文後待っている時間など)に行うようにしている。毎日行うことはできなくても、一週間に一度、このような振り返りの時間を持つようにしてみてほしい。個人的にお薦めな時間帯は、土曜日の午前中である(他の予定が入りにくく、何かしたいのならばその日の午後と日曜日が残っている)。

時間管理はいつ始めても早すぎることも、遅すぎることもない

ここまでの記述をみて、「そんな当たり前のこと今更」というように感じた人は、ぜひそのまま自分なりのやり方を続けていただきたい。その一方で、「そんなこと考えたこともなかった」という人は、今すぐ、この週末からでも遅くないので、やってみていただきたい。
この時間管理・タスク管理に関しては既にいろいろなところでブログ記事を書いた*9し、またこの連載のイラスト担当でもある岡野純さんも、とてもわかりやすい本を何冊も執筆している。学生には特に、『マンガでわかる!幼稚園児でもできた!タスク管理超入門』がおすすめである。全編カラーの漫画形式で、タスク管理の基本をわかりやすく紹介している*10
純コミックス |
岡野純さんのオフィシャルブログ右欄をご覧ください

「やることを管理する」というと、当たり前すぎて誰も教えてくれないが、やりたいこと・やるべきことの時間をしっかり確保するという観点に立ってみて、自分の時間と体力の使い方を見なおす機会を持つようにしていただきたい。

次回予告

第11回では、私が研究者を志すきっかけにもなった、「他の学問領域や他の法学領域と『対話』すること」について取り上げたい。領域を横断して問題を考えるとはどういうことだろうか。自分の知識や考え方にリンクを張るやり方を考えてみよう。

第10回【後編】まとめ

  1. 基礎知識の身につけ方をもう一度確認してみよう
  2. 自分の時間と体調を管理するやり方も、自分で見つけるしかない
  3. 第一歩として、自分の時間を可視化してみよう

*1:具体的には、「○○とは何か、説明せよ」などというような一行問題を実際に書き出して解いてみて、自分が本当の意味で理解しているのかどうかをきちんと確かめながらインプットを行うといいだろう。 第10回【前編】で紹介したケースブックにもそのような問題が含まれていた(第2問がそれに当たる)し、基礎学力を確かめるためには単に「教科書を何周も読んだ」だけでは足りず、実際に頭の中から出してみることができるかどうか、をきちんと確かめておくべきである。

*2:専門職を志すということは、自分で時間管理・体調管理ができるということが前提であり、忙しすぎて倒れてしまうようでは結局やっていけなくなることに留意してほしい。

*3:ふせんの上に書き出しておけば、空いている時間のどこで行うのかがわかるようになる。ふせんと手帳を使った応用編については、以下の記事を参照(先に、後述する「ぱうぜセンセのコメントボックス」の記事等を読んでから読むことを勧める)。
 付箋とほぼ日手帳カズンで「アナログタスクシュート」をやってみよう - カフェパウゼをあなたと

*4:この時点ではまだ両親に博士課程進学を相談していなかったこともあり、お金がなければ進学できない、と考えていたことにも起因している。

*5:この文献は19世紀後半の書物で、いわゆる「ひげ文字」だったこともあって、最初の1ヶ月はそもそも文字として認識できていないところがたくさんあったことから、辞書を引くことだけでも異常な時間がかかった。

*6:結局、在学中に別の種類のバイトに変更し、時間数も減らした。

*7:法科大学院の講義について行くことに精一杯で、時間も、体力も、気力も足りていなかった。

*8:もっとも、パソコンでのノートテイクを行うとついつい教員や他の学生が言ったことをメモすることに気を取られてしまい、講義中に考えたことなどの【内なる声】のメモが難しくなりがちなので、その点は注意が必要である。私自身の工夫としては、教員の言ったことや他の学生の言ったことをメモするだけでなく、自分で考えたことも意識的に一緒にメモし、【内なる声】であることが後からわかりやすいように冒頭に☆印をつけるなどの対策を取った。

*9:特に、「ぱうぜセンセのコメントボックス」では、「やることいっぱいどうしよう?」という連続企画で、タスク管理の初歩を解説した。
やることいっぱいどうしよう?!その1:下ごしらえと3つの方策
すべて書き出すことが大事

やることいっぱいどうしよう?その2:キャパシティを広げるには
自分が「普通」にできることを広げていこう

やることいっぱいどうしよう?その3:「やることリスト」をいじってみよう
タスクを分解して優先順位をつけてみよう

やることいっぱいどうしよう?その4:どうせやるなら二毛作
「一粒で二度おいしい」ことを探してみよう

学部1,2年生を想定して書いた記事であるが、法科大学院生にも活用できるだろう。

*10:なお、同書は紙版(1080円)とKindle版(変動することがあるが500円前後であることが多い)があり、スマホをよく使う学生にはKindle版をすすめている。スマホでの使い方やクレジットカードなしでの利用法についても、岡野さんが解説している。
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