第9回前編:行程表(ロードマップ)を決めて「自主ゼミの罠」を回避しよう

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みんな、自主ゼミってどんな風にやってるの?

この連載では、大教室講義と少人数ゼミ、そして自学を【法学学習のトライアングル】と位置づけて、法学学習のコツについて考えてきた。今回は、自分ひとりではなく、「友人と共に学ぶ自学」、いわゆる自主ゼミについてとりあげよう。自主ゼミとは、少人数ゼミを学生の自主的な活動として行うことを指す。
自分ひとりでコツコツと「インプット」型の勉強をしていると、飽きてきてしまって、どうもやる気がわかない。また、「アウトプット」の練習として書いた答案を誰かに見てもらいたいけれども、先生に見せるのは気が引ける。そんな理由で、共に勉強する仲間を集めて自主ゼミを行う学生も多いだろう。私自身も、学部3年生から始めた自主ゼミで同期と議論したり共に学んだりしているうちにようやく法学学習が楽しくなってきたという経験があるので、学生が自主ゼミを行うことそれ自体については肯定的な立場をとってきた。
ところがある時、学生向けに、先輩(学部4年生やロースクール生)と、後輩(学部2、3年生)とが進路や法学の勉強法について語り合うイベントを開き、その司会をしていたところ、「先輩側」の出席者からこんな発言が飛び出した。

「自主ゼミをしようと頑張る人たちがいるんですけど、正直、まだ学習が進んでいない学部3年生前半くらいまでの段階で自主ゼミをするのはオススメしないですね・・・」

この発言を皮切りに、参加した学生から「自主ゼミがうまくいかなかった」という体験談が多数集まった。また、「みんなが自主ゼミをやってるのは気になっているけれども、どんな風にやっているのかわからない」という感想も多数寄せられた。
そこで第9回では、自主ゼミを行う上で失敗しがちなポイント、すなわち「自主ゼミの罠」について紹介した上で、その解決策を考え、オススメの運営方法を示そう。もちろん、あくまで「自主ゼミ」なので、やる気のある読者の皆さんは、ここであげる例を参考に「自主的」に企画運営してほしい。

自主ゼミの罠

自主ゼミがうまくいかなかったという参加者が指摘した、自主ゼミの罠。もっとも大きな問題は、「気がついたら時間が過ぎていて、勉強したつもりになっているのだけども、自分ひとりでやる勉強に比べて身についていない」というものである。気の合う友人とおしゃべりすると楽しいし、議論しているうちに時間を忘れてしまうからだ。この「時間がすぐに過ぎてしまう」という問題だけでなく、自主ゼミがうまくいかなくなる要因として、考えられるものをいくつか挙げてみよう。

パターン1 つい関係のない話題にそれてしまう

仲の良い集まりだと、つい関係のない話題にそれてしまうことがある。講義の復習をしていて、先生の噂話を始めたり、友達と遊びに行った話になってしまったり・・・息抜きにはちょうどよいけれども、そればかりになってしまっては本末転倒である。

パターン2 勉強が進んでいないために「わからないなあ」で止まってしまう

過去問をみんなで解いてみて、互いに採点してみようという企画をしたとする。これ自体は有益な方法で、自分たちの表現がちゃんと他人に伝わるものになっているかどうかをチェックすることができる。しかし、お互いにまだ学習が足りていないために、何を書いたら「正解」と言えるのかがわからない。そんなこんなでいくら議論していても、「わからないということがわかった」という気づきは得られるものの、そこから先に進めなくなってしまう。

パターン3 議論が延々と続いてしまう

勉強をたくさんした人が複数いるときは、議論が延々と続いて、結論が出ないままになってしまうこともある。期末試験などの過去問を検討するゼミの場合を想定してみると、「この問題、適法という結論で書くべきか、それとも違法という結論で書くべきか?」「○○罪は成立するか?」という議論で盛り上がるのはかまわない。確かに、その問題を解くには必要な議論である。しかし、その議論が面白いからといって、細かい違いなどに踏み込みすぎて、そこの議論だけで終わってしまうと、結局「時間配分も含めて全体をどのように書くべきか」、「最後まできちんと時間内に書き切るためには、どういう風に勉強を進めようか」という点には至らないままになってしまうこともあるだろう。
自主ゼミではつい時間を忘れて盛り上がってしまうけれども、みんなが集まった目的が「期末試験対策」だとするならば、どうやれば答案が書けるだろうか、という実践的なところや、メインの論点以外も視野に入れた答案の組み立て方など、相談すべきことはたくさんある。しかし、ついつい目的を離れて、議論ばかり続いてしまうこともある。

パターン4 熱心に取り組む人と、受け身の姿勢で参加する人に分かれてしまう

「お互いに教え合う」という発想は良いけれども、いつのまにか、毎回真面目に準備してくる熱心な人と、教えてくれという受け身の姿勢で来る人に分かれてしまうこともある。そうなると、何のために自主ゼミをやっているのかについて、メンバー間で温度差が出来てしまう。酷いときには、不公平感からゼミメンバー間の仲が険悪になることもある*1

何のための「自主ゼミ」か?

パターン1や2は学部生の自主ゼミに、パターン3や4は、ロースクール生の自主ゼミによく見られる現象だと思う(あくまで、私自身が見聞した範囲では)。これらの「罠」に陥らないためにはどうしたらよいだろうか。以下では、わいわいやりたいAさん、議論が大好きなBさん、少し勉強が遅れていて引っ込み思案のCさんが、自主ゼミを行うという設定で、パターン1、パターン2、パターン3の罠について考えてみよう。

自主ゼミに何を期待するのかをみんなで確認しよう

いずれのパターンにも共通している問題は、参加者間で何のために自主ゼミを行うのか、自主ゼミの目的がきちんと共有されていないことにある。「つい話題が関係のない方向にそれてしまう」というパターン1も、「一人で勉強していてはひどく落ち込んだり、ふさぎ込んでしまうから、メンタルをなんとかするために自主ゼミを行いたい」と考えているAさんにとっては、そこまで悪いものでもない。
他方、「えんえんと議論が続く」パターン3も、議論が好きで好きで仕方がなくて、そのために自主ゼミを行うつもりであるBさんにとっては、問題はない*2
これらが「罠」となってしまうのは、参加者の参加目的がそれぞれ違っているにもかかわらず、それを明示的に確認しないで自主ゼミのために集まろうとしてしまうことである。自分ひとりで行う自学ではなく、あえて自主ゼミという形で勉強することに何を期待しているのかを、それぞれがきちんと表明し、すりあわせておく必要がある。

問題点を認識する

また、しばらくやってみたあとで、問題点を客観的に認識するよう努めよう。AさんとBさんが話し合って、うまく議論がかみ合うようになってきたように見えても、ひょっとしたら、参加者全員勉強が足りておらず、パターン2の罠に陥っているかもしれない。本人たちはわかったつもりでも、実はAさんとBさんを含む全員がよくわかっていなかったということは(恐ろしいことに)あり得るのである。
たとえば、AさんとBさんは、万引きをした事例についての罪責を論じる事例問題について、窃盗罪(刑法235条)が問題になると思って、それについて議論をしていたとしよう。

刑法
(窃盗)
235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
・・・略・・・
(強盗)
236条1項 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
236条2項 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
・・・略・・・
(事後強盗)
238条 窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。

しかし、実はこの事例問題では「逃げている途中で店員を押しのけた」という一文が入っており、それが事後強盗罪(238条)にいう「暴行」にあたるのかどうかを論じる必要があった。それを、Aさんは事後強盗の規定を知らず、Bさんは勉強はしていたものの事例中の一文をうっかり見落としてしまっていたために、二人とも窃盗罪の構成要件についての話題で盛り上がってしまったのだ。
また、AさんとBさんが盛り上がっているそばで、他の参加者であるCさんは置いてけぼりになっているかもしれない。本当はよくわかっていないのだけれども、楽しそうな二人の前で、「実は自分はよくわからないんだ」とはなかなか言えない。二人が話しているそばで教科書を開いて確認しようとしても、議論が続いている間はそれもまた難しい。

それぞれのニーズと課題を共有する

いままで出てきた3人のニーズと課題を書き出してみると、次のようになる。

Aさん:ひとりだと勉強が辛いから、わいわい話したい。すぐ話題がそれてしまう
Bさん:議論が楽しくて仕方ないから、どんどん議論したい。時間を忘れてしまう
Cさん:話そうとしたらわからないことがたくさん出てきてしまう。どうしていいかわからない

Cさんは、ある意味では自主ゼミの効果を一番に感じている人でもある。第7回【後編】の少人数ゼミでの質問や第8回【前編】の自学における【内なる声】でも触れたとおり、実際に議論をしてみたり、問題を解いてみると、わからないことがたくさん出てくる。それを第8回【後編】で説明したように、自学を進めていくためのきっかけにできればよい。しかし、AさんとBさんの議論に押されて、何がわからないのかがよくわからなくなってしまったり、「楽しそうにしているのを邪魔してもいけないな」などと思ってしまって、何も言い出せず、結果「なんとなく勉強したつもり」になってしまうことがあるのである。
そうならないように、Cさんは「何がわからないのかがわからないからちょっと話を聞いてほしい」と切り出せればよいのだが、AさんとBさんがいったん止まらないと、このような問題をみんなで認識することは難しい。
この3人が自主ゼミに期待することは、それぞれ有意義なものである。たしかに、Aさんの考えるように、勉強はみんなでやったほうが楽しいし、一人ではうまく取りかかれないのならば、きっかけづくりに自主ゼミを行うこともあるだろう。また、Bさんのように、議論をたくさんするために、少人数ゼミでは手が回らない科目について、自主ゼミで語り合うのも勉強になる。ただ、そこで出てきた問題点をきちんと認識して自学につなげていくためには、Cさんのように、わからないことをきちんと認識しようということも必要になる。
この3人が集まって自主ゼミをするのであれば、それぞれが何のために自主ゼミをしようとしているのかをきちんと共有して、その目的を達成するにはどんな設計をすればいいのかをきちんと話し合っておく必要があるだろう。
「せっかく仲良く集まろうとしているのに、こんな話をするのは水を差すようでちょっと・・・」という人もいるかもしれない。しかし、ここをきちんとやっておかないと、集まるためにかけた労力や、集まっているときの時間が無駄になってしまう。どの考え方も一理あるのだから、恐れずに確認してみよう。

より良い自主ゼミのために

それでは、どうすればより良い自主ゼミになるだろうか。

改善策その1 行程表(ロードマップ)を決める

まず、自主ゼミを始める前に、5分間だけ時間をとって、ロードマップを全員で決めよう。ロードマップとは、行程表、あるいは時間進行予定表のことである。イベントを始める前に、このイベントの目的は何か、時間ごとに何をするのか、をあらかじめ決めておくのである。
自主ゼミを始める前に、全員で次のことを確認しよう。

  1. この自主ゼミ全体の目的は何か
  2. 今日の回は、何時までで終わらせる予定か
  3. 今日行うゼミの目的や目標は何か
  4. 途中で抜けるメンバーはいるか(→いる場合、全員いる内にやるべきことは何か)
  5. 時間を区切って、どこで何を行うか

そして、集中しきってしまう前に、スマホアプリのタイマー機能などを使って、時間になったらアラームが鳴るようにしておこう。
このときのポイントは、息抜きや休憩の時間もあらかじめ予定しておくことである。たとえば、25分議論したら、5分はトイレ休憩ということにして、しっかり休みをとってから、また次の話題についての25分を行う、というような感じである。講義とは異なり、時間が決まっていない自主ゼミはだらだらしやすいが、前もってどのあたりで休憩するのか等を確認しておくことで、議論の拡散を防ぐことができる。

改善案その2 「みんなでわいわい」と「それぞれもくもく」を切り替える

次に、ロードマップを決めるときに、全員で議論する「みんなでわいわい」モードの時間と、黙ってそれぞれが目の前の課題に取り組む「それぞれもくもく」モードの時間を意識して切り替えるようにしよう。
「それぞれもくもく」の時間をあえてつくるメリットは二つある。ひとつは、同調により学習に取りかかりやすくなるという効果である。図書館や自習室だと勉強に集中できるという人もいるだろう。それは周りも頑張っているからである。「ひとりだとなかなか勉強するモードに入れない」というAさんにとって「目の前で他の人も頑張っているから自分もがんばろう」と、ふだんよりも取りかかりやすくなるという効果が期待できる。
もうひとつは、その場で調べて学び、さらにそれを他のメンバーに向かってアウトプットすることで確認することができるという点である。「議論している内にわからないことがたくさん出てきてしまう」というCさんにとっては、「それぞれもくもく」モードに入ったときに、何がわからないのかをきちんと書き留めておいたり、教科書等で調べてみることができる。やっとわかるようになったのなら、次の「みんなでわいわい」モードの時間にAさんやBさんに説明して、自分の理解が深まっているのかどうかを確認してみよう。
また、調べた結果やっぱりわからないのなら、それを質問することもできる。

実際にどうやるの?

改善案を提示したところでかなりの長さになったので、次回第9回【後編】では、「みんなでわいわい」と「それぞれもくもく」を切り替えながら、どのように自主ゼミを運営していくかについて、具体的な例と共に考えていこう。

第9回【前編】のまとめ

  1. 「なんとなく勉強したつもりになってしまう」という自主ゼミの「罠」を回避しよう
  2. 自主ゼミの目的をみんなで確認しよう
  3. ロードマップを作ってから取りかかろう

*1:なお、一方が他方に教えるゼミが常に険悪になるというわけでもなく、これを問題点とみるべきかどうかの評価は難しいので、以下の検討からはパターン4についての言及は外してある。本当に良く出来る人は良く出来るし、その本人が「教えること」によって得られるものがあり、それを全員が納得しているのであれば、とやかく言うべきことではないのかもしれない。しかし、私個人の意見としては、全ての科目について「教える人」と「教わる人」に分かれてしまうくらい実力差がある自主ゼミはあまり健全ではないように思う。もっとも、私も学部3年生当時、既に司法試験に合格するほどの実力がある同期に自主ゼミで基本6科目をよく教わっていて、その「お返し」に基本6科目には入っていなかった行政法を頑張っていたところ、それが元となって行政法の研究者になっていたりするので、メンバー間で実力差のある自主ゼミが一概に悪いものともいえないという事情がある。

*2:もっとも、Bさんのような考えを持っている人は、議論をすることだけに夢中になってしまい、コツコツ型の自学(用語の定義を覚える、条文を読む、択一問題を解くなど)がおろそかになりやすい点に注意が必要である。何を隠そう、学部時代の私自身がそうだった。

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