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第8回前編:「わからないこと」を次の自分にうまく受け渡そう

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「効率的な勉強方法とはどんなもの?」という相談

行政法1の講義後に、二人の学生が質問にやってきた。一人は法経学部法学科3年生で法曹を目指すAさん。一通りの法学科目は履修済み。もう一人は他学部で公務員試験対策のために法律科目を学ぶBさん。憲法民法しかやっていないけれども、他学部であるにもかかわらず優秀な成績で単位を取得したようだ。
その二人が、そろって同じ質問をしてきた。
「効率的な勉強方法ってありますか?」
そこで、二人一緒に研究室にきてもらい、互いに教えあいながら学んでもらおうと思い立った。法学系のゼミを受けたことがないBさんのために、二人とも履修済みの民法を素材として、即興のゼミを行い、「大教室講義・少人数ゼミ・自学」という法学学習のトライアングルをいかにうまく回していくかについて解説をした。
第8回【前編】は、その二人との即興ゼミを以下のとおり再現してみることで、「わからないこと」を次の自分にうまく引き継いでいくことがいかに大事か、ということについて述べることとしたい。

事例問題をゼミでやってみよう

そのとき素材にした事例問題は、次のとおりである。

「ケーキ店を営むXが、八百屋Yから、クリスマスケーキ需要に間に合わせるためにイチゴを1kg仕入れたところ、一部のものにカビが生えていて、もともとXが他から仕入れて保管していた別のイチゴ2kgも一緒にカビてしまった。この場合、XはYに対して、どのような申し入れをすることができるか。」

以下、3つの場面について、会話文で再現してみたので、皆さんもゼミに出ているようなつもりで読んでいただきたい。

1 あやふやなイメージではなく、条文の文言をしっかり読もう

横田「この事例問題を解くときに、どのようなことをするかな? 六法は貸すので、やってみよう。」
B「まずは六法を引きます・・・ええと、損害賠償かな・・・民法416条でしょうか。」
A「Bさん、それならまずは415条ですよ。引き渡されたイチゴもカビてたんですから」

民法
債務不履行による損害賠償)
第415条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
(損害賠償の範囲)
第416条1項 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
    2項 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

横田「カビてると、どうして損害賠償ができるの?」
A「なんだっけ・・・イチゴが食べられなくなっているからです」
横田「そうじゃなくて、それって要するにどういうこと?」
A「目的を果たせてないから」
横田「そういう言い回しでいいんだっけ?」
A「(条文をみながら)あ、『債務の本旨に従った履行をしないとき』だからです」
横田「それじゃ、今回の『債務の本旨』は?」
B「売り物になる、食べられるイチゴを1kg、ということですか?」
横田「そうだね。Xさんはケーキ屋なんだから、さらにお客さんに売れないものを引き渡されても仕方が無いし」

2 習った要件は条文のどこにある?

B「あと、他から仕入れて保管していたイチゴ2kgのほうも、損害賠償に入りますかね・・・」
A「因果関係は問題にならないかなあ。カビが生えたの、本当にYの引き渡したイチゴのせいかなあ。Xの保管状態が悪くてもともとカビてた可能性もあるよね」
横田「因果関係って、条文上どこに書いてあるかわかる?」
A「『これによって生じた損害の賠償』ってことですか」
横田「そう。正確に言うと、『これに因って』の部分だね。漢字で書くとわかるよ、これ」
B「へぇ~!」

3 パンデクテン方式の罠

横田「損害賠償のほかには何か無いのかな?」
A・B「・・・?」
横田「損害賠償も大事だけど、この事例だと解除もできるんじゃないの? この売買契約、いつだかわからないけど、クリスマスケーキ用のイチゴってことは、当然クリスマスの直前に渡すよね。あの時期、イチゴは高騰しててなかなか手に入らないから・・・」
A「あ! ええと、そば屋の出前が会議に間に合わないみたいな、あれですね」
B「何条だっけ? 探してみましょう」
A「なかなか見つからない・・・」
B「あ、542条ですか。『定期行為の履行遅滞による解除権』っていうのですね」
横田「そうだね。間に合いそうにないなら、解除しようってなる」
A「なんですぐみつけられなかったのかな・・・」
横田「パンデクテンの罠、だね」
A「あ、そういうことか」
B「?」

ゼミが終わったあとに残るもの

Bさんは、即興ゼミが終わったあと、途方にくれていた。たしかに、驚きや、発見があったし、疑問点もあったような気がする。そういう意味では、初めての「法学系ゼミ」体験は、一人で勉強するのとは違い、とても楽しいものだった。そういう意味で、大教室講義や自学だけでは得られないものを得たような気がする。しかし、ここで立ち止まってしまうと、せっかく得たモチベーションや学習のとっかかりを失ってしまうことになりかねない。ゼミでの記憶は簡単に風化して、ただ楽しかった、もっと勉強しなきゃ、というあいまいな思いだけが残るようになってしまう。

法学学習のトライアングルを回すために

そこで、実際には、上記の即興ゼミを始める前に、ゼミ中のノートは「現在行われている議論の流れ」を書くだけではなく、「自分の【内なる声】」も拾うようにすることをAさんとBさんには勧めていた。そのノートを見せていただいたので、二人の許可を得て、彼女たちが実際に上記の即興ゼミ中にとった【内なる声】を具体例として、どうして【内なる声】を記録しておくとよいのかについて考えてみよう。

【内なる声】の書き出し方

まず、【内なる声】の書き出し方について述べよう。講義やゼミの間、その場で行われている議論だけでなく、そのそばに、場所を変えて、あるいは色をかえて、自分の疑問や驚きがあったところには印をつけておこう。そのときは文章で書けなくても、あとで補充すればいい*1ので、「?」「!」「☆」などの記号をつけるだけでも、キーワードを書くだけでもよい。とにかく、ノートに書き出す癖をつけることが大事である。なんとなく思っていることを、「思っているだけ」では済ませずに、ちゃんと自分の頭の中から出しておく。そういうイメージでやってみてほしい。

書き出しておくとよい【内なる声】の具体例

上述のゼミ中に、AさんとBさんが実際に書き出してみた【内なる声】を素材に、書き出しておくとよいものを類型化してみよう。

1 疑問

「~がわからない」「○○って何だろう」という疑問を感じることが多いだろう。そのときは、「どこを読んでそういう疑問をもったのか」まで一緒に書き出しておくとよい。上述の例であれば、Bさんは「パンデクテンって? 条文が見つけにくかったときに、先生が『パンデクテンの罠』と言っていた」というメモをとっている。このように疑問に理由や根拠をつけてみると、意外と自己解決できることもある。もう一度読み返してみたらわかったということも珍しくない。

2 「初めて」聞いた言葉や視点

話を聞いていて、初めて耳にした単語や、意味がよくわからない言葉にぶつかったら、そのこともメモしよう。上のゼミでは、Bさんは「条文を読んで『よって』と書いてあったら『因って』のことであり、因果関係が問題になるときがある」ということを知らなかった、とメモをとっている。このようにメモをとっておけば、Bさんは次から六法を読むときに、ひらがなの「よって」にも意味があるのだ、ということに気がつきやすくなるだろう。なお、条文を読む癖がついていないと、テストのときにはじめて条文をきちんと読むことになり、講義で習った要件・効果が条文のどの文言から出てくるのかわからないということになりがちなので、日頃から条文と教科書とをつきあわせながら読むようにしよう。

3 すっかり忘れていたこと

2とは逆に、前の学年での講義などで一度習ったはずなのに、すっかり頭から抜け落ちていたこともメモしておこう。Aさんは、解除についても習ったはずなのに、債務不履行のことばかり考えてしまって解除については検討しなかったことをメモしている。「解除も債務不履行も最近やったばかりなのに、全然わかってなかった(+。+)」*2という驚きとともに。

4 意欲・アイデア

AさんもBさんも、わかっていなかったことやわかったつもりになっていたけれどもよく理解できていなかったことが見つかったので、この先の学習でこんな風に試してみたい、というアイデアも一緒にメモしている。たとえば、Bさんは「もっと条文を一から読み直してみよう」というメモをつけているし、Aさんは、「解除は無償契約の場合にはどうなるんだっけ?」という、今回抜粋しなかった議論のなかで出てきていた別の問題について、もっと調べてみよう、というメモをつけている。このように、疑問や驚きをメモしておくと、次に何をやるべきかがわかるし、そのための意欲もわいてくるのだ。

次の自分にバトンタッチする

講義やゼミでの議論の流れにおいて重要なキーワードだけでなく、自分の頭の中を通してみて重要だとわかったことについてもメモがとれるようになると、別の場面での学習にもとりかかりやすくなる。

「自分の【内なる声】メモ」にさらに応答する

ゼミが終わった後は、今度は自分ひとりで【内なる声】に応答するようにしてみよう。疑問や驚き、知識の漏れがあることがわかったのなら、それに対して何らかのアクションをとろう。そして、一応納得できたのならば、そのことをさらに別の色で書き込んでおくといい。
これを積み重ねることで、自分にとってわからなかったことを、ひとつひとつつぶしていって、漏れのない知識を作ることができるようになる。
私自身がやっていた勉強法としては、次のように試験問題練習と判例つき六法への書き込みとを組み合わせる方法がある。択一式試験の過去問をやって採点したあと、必ず条文に戻って確認をした。参考用教材として『判例六法』(有斐閣)を使っていたので、それに「自分が間違えた問題、迷った問題のもとになっている条文や有名判例についてだけ色をつける*3」というルールで書き込んでいた。実際に問題を解いてみてあやふやだったり、勘違いしていたりした文言については強調する。「よって」を「因って」だと気がつかず見落としていたのなら、そのことをちゃんと民法415条の脇に書いておく、という感じである。
そして、ゼミノートのほうにも、「今後はこういう条文の気づきがあったら判例付き六法に書き込もう」と書き込んだ。これは学習方法についてのアイデアである。このようにメモすることで、さらに次の自分に対しての申し送りをすることができる。実際にやってみてうまくいったのなら、このメモの脇に、「(判例つき六法に書き込むのは)電車の中でも出来てオススメ」などと、やった結果を書いておくとよい。

法学学習のトライアングルをぐるぐる回す

このように、自分の疑問や驚きなど「【内なる声】メモ」を書いていくことによって、疑問や驚き、そして意欲を次の自分に引き継ぐことができる。これを、大教室講義・少人数ゼミ・自学のそれぞれの場面の自分があたかもリレーをしているかのように回すことができれば、より深く、漏れのない学習につながるだろう。

次回予告

今回は即興ゼミを素材にしたが、それでは、実際の学習場面においては【内なる声】の受け渡しや書き出しはどのようにやればいいのだろうか。次回は、筆者が担当している大教室講義で利用している「コメントシート」を紹介し、大教室講義・少人数ゼミ・自学における活用場面を検討したい。それぞれの場面においてインプットとアウトプットがあり、2×3=6の「頭の使い方」があるので、それぞれの間を取り持つような【内なる声】の受け渡し方について考えてみよう。

第8回【前編】のまとめ

  1. 議論の流れだけでなく、そのとき自分がどう思ったか=【内なる声】も書き出しておく
  2. 疑問や驚きなどの【内なる声】に応答するように、次の行動につなげよう
  3. 何らかの行動をしたら、その結果も追加で書き留めておこう

*1:あとで補充をするためにも、講義やゼミが終わったら記憶が風化しないうちに自分のノートを読み返すことをオススメする。また、教員の話が速すぎてノートを書くことが間に合わないのなら、「授業時間内は教科書の該当ページやレジュメの見出し番号だけメモし、項目名等は後から補充する」などの工夫をするとよい。

*2:顔文字も含めて、原文ママである。楽しんでノートをつけていただきたい。

*3:色の付け方については、第5回【後編】で紹介した「3色ボールペン法」の応用で、原則に当たる部分を青、例外に当たる部分を赤というように工夫していた。

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