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第7回後編:「良い質問」って何だろう~少人数ゼミで質問のしかたを学ぼう

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自分が報告しないときのゼミでの過ごし方

少人数ゼミは通常、5名~15名程度の学生が、交替で報告をするというかたちで進んでいく。第7回【前編】では、報告者の立場でゼミに参加することの意味を詳しく紹介した。判例評釈や論文に触れ、知りたいことのために調べていくことで、法学の知識を生きた知恵にしていくことができるということである。それでは、自分が報告をする番ではないときは、ただ聞いているだけだろうか? いや、そんなことはない。実は、報告者にとってゼミが「調べ物をする必要性」に迫られて、調べて考えるトレーニングを積む場であるのと同様に、それ以外の聞き手としての学生にとって、ゼミは「良い質問をするためのトレーニング場」である。聞き手としての立場でも、単なる知識を「生きた知恵」にするためのトレーニングを積むことができる。今回は、ゼミにおける「良い質問」とは何かについて考えてみよう。

良い質問とは何だろう?

「良い質問」というのはどういうものか。これはいろいろな考え方があるだろうけれども、まずは初年度ゼミ(基礎ゼミ)のように、質問慣れしていない学生が多い場合にどんなことが起こるかについて考えてみよう。

質問慣れしていないときにありがちなこと

1)質問すべきことが見つからない

報告者の発表が終わって、質疑応答の時間になると、みんな黙りこくってしまう。そんな経験はないだろうか。報告者は話さなければならないことがわかっているから、事前に準備をしている。しかし、周りの聞き手はそうではない。うっかりするとただの「お客さん」になってしまって、何を聞けば良いのかわからないままに時間が過ぎていってしまう。

2)くだらない質問に思えて勇気が出ない

ちょっとよくわからないことがある。しかし、「よく勉強してきた報告者に、こんな些末なことを聞くのは失礼になるのでは?」と尻込みする人もいるだろう。自分のなかでぐっと飲み込んでしまって、その疑問は表に出てくることはない。

3)質問をたくさんする人とそうでもない人に分かれてしまう

また、ゼミ生のなかには質問をするのが大好きという人がいる場合もある。「こんなことも考えられるんじゃないか、あんな場合はどうか」というように、質問が得意な人はどんどん質問していく。しかし、周りの学生は、「ちょっとついていけないかも・・・・・・」と感じることもある。報告者と質問者以外のゼミ生は、やっぱり「お客さん」状態だ。

4)まとまりのない質問になってしまう

質問をするのが大好きな学生にも、つまづきの石がある。それは、発言時間が長くなって、喋っている内に何が聞きたかったのかがよくわからなくなってしまうことである。「こうも考えられる、こんな事例もある・・・・・・(それで、自分は何が聞きたかったんだっけ?あれれ?)」という感じである。これでは質問を受けた報告者も、何に答えれば質問に答えたことになるのかがわからなくなってしまう。

質問の聞き手は報告者だけじゃない

いかがだろうか。これらのうち、1)と3)のケースに共通する問題は、ただ聞いているだけで質問をすることがない「お客さん」が出来てしまっていることである。こうなってしまうと、一部のゼミ生だけが発言するようになってしまい、これではゼミの効用である「単なる知識を生きた知恵にする」という利点を十分に活かしているとはいえない。質問をしていなくても、何か考えているのならばまだマシである。そうではなく、ただただ「報告者頑張ってるなあ、質問できるのすごいなあ」と思うだけで、自分の頭を使わないまま時間が過ぎてしまうのであるのなら、大変もったいない。この「お客さん」を生み出さないようにするために気をつけておいてほしいことは、質問の相手方になっている報告者だけでなく、ほかのゼミ生もまた質問を聞いているということである。Aさんが報告者で、Bさんが質問をしているのなら、残りのCさんやDさんもBさんの質問を聞いている。このことを確認しておこう。

些末に思える質問は、みんなの疑問の「氷山の一角」

また、2)のケースのように、自分の疑問に自信がもてないこともあるだろう。しかし、報告のために調べてきたAさんにとっては当たり前のことでも、他のゼミ生にとってはそうではない、ということはたくさんある。Bさんが感じている疑問は、CさんもDさんも持っているかもしれない。ひょっとしたら、Aさんの勘違いや思い込みがもとになって報告内容が間違っているということもあるかもしれない。だから、勇気を出して質問をしてみるとよい。

「良い質問」とは

上述のとまどいを何度もゼミでみかけるうちに、私はゼミにおける「良い質問」とは何かについて考えるようになった。そこで得た結論は、「自分の心の中の疑問をうまくすくい取り、質問の相手や周りの聞き手とも共有できる質問」である。くだらない質問と思えても、すくい取った疑問をうまく形にすれば、報告者や他の聞き手もその意図を共有したり、議論のきっかけとすることができるからである。自分の心の中の疑問をどうすくい取るかについては次回の第8回【前編】あるいは【後編】でくわしく述べることにして、以下ではどうやって報告者や他の聞き手にもわかりやすい質問をすることができるかについて、私が心がけていることを述べよう。

質問は即興スピーチである

音声だけでの即興コミュニケーション

そもそも、なぜ質疑応答は難しいのだろうか。その原因のひとつは、「その場で考えてすぐに発話しなければいけないから」ということにあるだろう。考えながら話してしまうと、4)のようにまとまりのない質問になってしまう。また、そうなるのが怖くてそもそも質問できないという人が「お客さん」になってしまう。せっかく疑問をもっているのに、大変もったいないことである。とはいえ、まとまりのない質問を受けている受け手の気持ちで考えてみると、「どこに着地するのかわからない」という問題がある。音声だけのコミュニケーションの場合は、紙に書かれた文章とは違って、「先に読んでおく」ということができない。「この質問の結論はなんだろう?」と結論だけ先に読むということが、音声だけのコミュニケーションでは不可能である。
このような問題点に気がついたので、私はあるときから、学部生時代に英語サークル(ESS)で学んでいた「即興スピーチ」の技法を応用してみようと思い立った*1。即興スピーチとは、事前に準備するのではなく、その場で与えられたお題について、準備時間を経て、すぐにスピーチを行うというものである。私が経験したなかでもっとも短いものとしては、準備時間が3分、スピーチ時間が4分(!)という、まるで曲芸のような大会に出場したことがある。なぜこんなことができるかというと、あらかじめ「型」を決めておいて、それにお題をあてはめていくように考えるからである。以下では、そのときの経験をもとに考えた、質疑応答での「質問の型」をご紹介する。

即興スピーチにヒントを得た「質問の型」

即興スピーチでは、自分の主張したいこと(メインクレーム)は、冒頭と最後の両方ではっきり言うようにと指導を受けた。メインクレームを二度言う間に、その主張の根拠や理由を挟みこむというのである。これは、これから話すことがどこに向かっているのかをまず示し、それがどこから生まれたのかを説明して、最後にもう一度大事なことを言う、という思考である。これを、ゼミでの質問にあてはめてみよう。

1)見出し:何の項目についての質問か

まず最初に、何の項目についての質問かをはっきりさせよう。報告者がレジュメを配っているのであれば、何ページの何の項目についての質問なのかを述べるとよい。これで、報告者だけでなく、周りの聴衆も、どのあたりの話なのかついてこられるようになる。

2)理由・根拠:疑問の背景や前提を述べよう

次に、どうしてその疑問を持ったのか、理由を述べてみよう。同じ質問にみえても、疑問の出発点がまるで異なるということはよくある。何が原因で疑問に思ったのかを述べることで、質問の前提になっている知識をはっきりさせるとよい。もしデータや文献、体験談をその根拠として示せるのであれば、それもふれるといい*2

3)疑問文:何が聞きたいのかを疑問文で

最後にもう一度、何が聞きたいのかを疑問文のかたちで述べよう。最初に述べたこととまったく同一でもかまわない。これを添えることで、報告者は何について答えればよいのかをはっきり認識することができる。

質問シートを使ってみよう

以上のようにのべてみたものの、これを頭の中だけで構成するのは大変である。そこで、私が指導しているゼミ(以下、横田ゼミとする)では、質問シートを利用している。横田ゼミ冬学期は外部からゲストを招いて講演をしていただき、それに対して学生が質問をするという内容になっている。そのとき、学生の質問を助けるものが質問シートである。
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学生には、まずノートに何について疑問を持ったのかをメモしてもらったあとに、このシートに記入してもらうことにしている。第4回【後編】で述べた「発想→整想→成果物」の3ステップとの関係では、手元のノートが「発想」、シートへの記入内容を選ぶところが「整想」、シートの記載が「成果物」となっている。

キーワードと内容

質問シートの左側は、質問のキーワードを書く欄である。ここは上述の「見出し」に対応する。そして、それをふまえた上で質問内容を右側に書くようになっている*3

口に出して言うことが苦手な方にも

このシートは、報告者(ゲスト)の話が終わったあと、10分間の時間をとって、記入と回収を行う。つまり、いきなり質疑応答に入るのではなく、まずは書いてもらうことにしているのである。こうすると、口に出して質問することが苦手なシャイな性格の学生も、良い質問をたくさん書いてくれることが経験上わかっている。

質問順を並び替える

質問シートを受け取った報告者(ゲスト)は、それらを並び替えて、似た質問があればまとめて答えていく。このとき大事なのは、報告者(ゲスト)が、質問者ごとに答えていくのではなく、質問内容に応じて答える順序を決めることである。この質問の順番がかなり大事であり、また、質問シートを使わない場合でも気をつけておくとメリットが大きいので、項を改めて紹介しよう*4

質問タイム進行と質問の順番

質問タイムは思いのほか限られているものである。この時間をうまく使うためには、質問の順序にも気を配る必要がある。

質問の種類

質問にも2種類ある。それは、1)報告者の報告内容を受けて、その内容を確認したり、説明不足のところを補うよう促して、理解を他の聞き手も含めた参加者全体で共有するための質問と、2)それをふまえて議論をさらに先に広げたり、深めるための質問である。

1)理解を共有するための質問

報告がハイレベルすぎてついていけないときには、恐れずに「この部分がわかりません。初歩的な質問だけれども、もう少し手前から教えてください」などと、基礎的な前提知識をみんなで確認し、報告者が何を言いたかったのかをみんなで理解することができるような質問をしてみよう。実は報告者も、報告の大前提をすっ飛ばしているということがあるので、わからないのは自分だけとは限らない。おそらくはみんなが感じている疑問の「氷山の一角」なので、恐れずに聞いてみよう。
また、報告者があまりよくわからないままに説明を落としていることもあるかもしれない。そんなときは、「私は(他のところで習った知識から)○○のことかと思ったのですが、それで合ってますか?」というかたちで、報告を補うような質問をするのもひとつの手である。これは、ゼミに学年や専門が違う学生が混在しているときには特に有効だろう。

2)議論を広げて深めるための質問

いくつか1)の質問をしてからは、質疑応答で出てきた議論をふまえて、より先に進むための質問をしてみよう。たとえば、「報告者の結論をふまえると、○○についてはこれからどう考えればいいと思いますか?」などという質問である。この場合は、もしあなた自身も何か考えているのであれば、それをぶつけてみるとよい。
このような質問を横で聞いているときには、ぜひ、「僕は~~と思う」というように、いろいろな意見が出るよう発言してみるとよいだろう。

順序を間違えるとみんなが辛い

1)理解を共有するための質問と、2)議論を広げて深めるための質問との順序が逆になると、必ずついていけない人が出てしまうので、注意してほしい。頭の回転がよい人は、思いついたが吉日、とばかりに、2)の質問からしてしまうことがある。しかしそうすると、報告がちょっと難しいなあ、よくわからないなあと思っている他の聞き手が、1)の質問をするタイミングを失ってしまう。
報告者としても、報告直後は緊張でガチガチである。最初の質問は、前提を確認するような1)の質問のほうが答えやすい。答えていくうちに緊張もとけてきて、少し難しい2)の質問にも答えられるようになるだろう。

イベントや学会でも使える知恵

先に述べた「質問シート」は、実は学会での質問票を改良したものである。学会報告には多数の質問が寄せられ、しかも研究者の関心や専門は様々なので、事前に質問を書いてもらって交通整理を行っている。それを経ることで、何を意図した質問なのかがわかるようになるし、全体の質問の順序も調整しているのである。
このように、ゼミ室以外の場所でも、質疑応答が必要な場面には大変有効な手段である。もし、主催者側がこのようなシートを用意していなかったとしても、手元のノートやメモを使って似たような作業を行い、「見出し」→「理由」→「疑問文」の順序を心がけよう。また、質問を出すタイミングもはかってみよう。そうすると、他の聞き手とも理解を共有し、実りのある質疑応答時間を過ごすことができるようになるだろう。
なお、この記事は、かつて研究会の質疑応答場面を想定して書いた記事のリライトとなっている。研究者の皆さんは、こちらも参考にしていただきたい。
実りある研究会から「発話」と「発言」の間を考える - カフェパウゼをあなたと
大学院生だった頃に、研究会に参加している経験を元に書きました


次回予告

第7回は法学学習のトライアングル最終章と銘打ったが、実はこの「大教室講義・少人数ゼミ・自学」のトライアングルをうまく回していくコツがある。それは、自分の疑問や質問をうまく拾い上げて、大教室講義と少人数ゼミと自学の間をつないでいくということである。講義ゼミで感じた疑問をエネルギー源として、自学の時間を楽しく効率的なものにするにはどうすればよいだろうか。第8回は、私の講義で使っている「コメントシート」システムの効用も紹介しながら、ノートやメモの使い方なども含めて、自分の疑問の拾い方やその活用法について考えていこう。

第7回【後編】のまとめ

  1. 「良い質問」とは「自分の心の中の疑問をうまくすくい取り、質問の相手や周りの聞き手とも共有できる質問」である
  2. 見出し→理由・根拠→疑問文の順で発言してみよう
  3. 理解を共有する質問は前半に、議論をさらに広げて深める質問は後半にやってみよう

*1:ゼミでの質疑がうまくいかないなあ、という悩みは学部生のときから感じていたものの、学部1、2年生のときのサークルでの経験を活かして、こうすればよいと気がついたのは博士課程の院生になってからである。これは、法科大学院での対話型講義での経験も背景にあるものと思われる。人生何が役に立つのかわからないものである。

*2:この理由・根拠を述べることは重要である。というのも、質問の前提となっている理解が間違っていたり共有されていないために、聞き手と報告者との間ですれ違いが生じているということがよくあるからである。同じ「○○がわからない」という質問でも、その理由によっては、○○について説明するよりも、その前段階の知識から答えたほうが適切な応答になることがある。

*3:なお、実際の質問シートには、この記入欄が5つあるし、質疑応答のなかでも口頭で追加の質問ができることになっている。

*4:つまり、次項の「順番」に関する工夫は質問シートを使わなくても実現可能なので、質疑応答の司会を担当するときや、自分の疑問をどの順番で出すかを考えるときなどに心がけていただくとよい。質問シートを使うと、どの順番で誰が書いても報告者や司会が後ろの質問を「先に読む」ことができ、順番の並び替えも容易になるのでよりオススメである。

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