第5回前編:6ステップを踏まえて自分なりのインプット法を見つけよう

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どうやって自分の学習法を見つけるか?

夏休みに入り、サークルやバイトで忙しく飛び回っている大学生も多いことだろう。しかし、せっかく定期試験というアウトプットの機会を得たのだし、ここで一度、自分の勉強法を見直してみてはどうだろうか。第5回は、法学学習には6つのステップがあるということを今までの連載を振り返りながら紹介し、どのように自分なりの学習法を見つけていけばよいのかを考えよう*1。なお、これは【大教室講義・少人数ゼミ・自学】のトライアングルという観点から言えば、自学に相当する*2。講義やゼミの予復習に限らない、自分なりの学習法を考えよう。
まず、学習法を考えるにあたっての基本的な観点を3つ、述べることにしたい。

1)必要な内容、レベルはどの程度?

まずは、学習するにあたってどのようなレベルまで身についていればよいのかを考えてみよう。定期試験を受けた直後であれば、「試験会場でここまでわかっていればもっといい答案が書けたのに!」と悔しい思いをしているかもしれない。また、将来受けることになる試験の過去問を持っているのならば、今は全然出来なくても良いから一度ちゃんと問題と向き合ってみて、今の自分に足りないものを洗い出してみよう。何が自分に足りないのかがわかれば、どう対策をすればよいのかも見えてくる。

2)「自分のやり方」の棚卸し

あなたも大学生になるまで、色々な勉強や学習をしてきたことだろう。何かを覚えたり、考え方をつかんだりして、それをきちんと資料に基づいてまとめ、そして一定のやり方で表現するということは、今までの経験の中にもあったはずである。
このとき、それが狭い意味での「勉強」に属するかどうかは気にしなくて良い。それが日本の歴史についてなのか、英単語なのか、はたまた部活での戦術メモやスコアの取り方なのか、趣味のゲームやアイドルなどについてのデータ整理なのか、バイト先でのメニューやマニュアルの覚え方なのかは様々だろうけれども、自分なりに「こうやれば上手くいく」という感覚のある方法が既に見つかっているのであれば、「自分にあったインプット・アウトプットのやり方」の例として、それらを棚卸ししてみよう。

3)どのタイミングで行うか?

1)と2)とをつきあわせてみると、「法学学習に必要な、自分にあった覚え方や練習の仕方」がある程度見えてくるはずである。しかし、大学生活は思った以上に忙しく、またこの先には別のアウトプットの機会(ゼミの課題や、予備試験・法科大学院入試・公務員試験など)もあることだろう。そうすると、どの時期にどこまでをやれるようになれば良いのか、という中長期的な目標管理も必要になる。
また、自分のこれまでの大学生活を振りかえってみて、どの時間帯に何の作業をするのがもっとも効率が良いのかという点も考えてみて欲しい。既に第3回【後編】で、「自分なりの時間割をつくる」という表現で説明したので、ぜひ参考にしていただきたい。

法学学習の6ステップ

それでは、必要な内容やレベルを考えるためにも、法学学習の6ステップについて深掘りして考えてみよう。


インプットの手順

インプットのポイントは、全体像をつかむ「鳥の目」と、細かく一つ一つ覚えていく「虫の目」とを往復することであった。その往復を3ステップの「ケーキのたとえ」で考えてみた。
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【インプットの手順】
1)スポンジを焼く←全体像をなんとなくつかむ(鳥の目1周目)
2)サンドして薄塗りをする←ひとつひとつの素材を扱う(虫の目1周目+鳥の目2周目)
3)デコレーションする(虫の目2周目+鳥の目3周目)

1)スポンジを焼く(鳥の目1週目)

まず、入門書か教科書の「大事そうなところ」だけを、とにかく最後まで読んでみる*3。これが、全体像をつかむための鳥の目1週目である。これは、ケーキ作りで言えば土台のスポンジを焼く作業に相当する。まだこの段階では売り物にはならないけれども、全体の大きさがなんとなくわかる、というような状態である。

2)サンドして薄塗りをする(虫の目1周目+鳥の目2周目)

ケーキ作りの場合、焼いたスポンジを少し冷ました後、均等にスライスしたうえで、具材とクリームを用意して、きれいに並べ、サンドしていく。このような細かい手順を一つ一つ行うのが、虫の目1周目である。一つ一つの用語を覚えたり、用語の相互関係をつかんだり、細かいことも覚えていく。
ある程度作業が進んだら、今度はもう一度全体を見てみよう。これが「鳥の目」2周目である。ケーキ作りだと、最後のデコレーションを行う前に全体にクリームを薄く塗る「下塗り」に相当する。ここでいったん全体を見渡すことで、次の段階がしっかりと身につくようになる。

3)デコレーションする(虫の目2周目+鳥の目3周目)

最後に、具材を丁寧に並べたり、クリームをしぼったりという、デコレーションを行う。サンドして薄塗りしただけでも一応おいしく食べることはできるけれども、人に見せることができるようなレベルまできちんと覚えたのかどうか、実際の事例との関係で使えるような知識になっているのかどうかを確認しながら改めて覚えていく、という段階に相当する。ここでは虫の目も鳥の目も必要になるので、状況に応じて使い分けていくことになる。

アウトプットの手順

アウトプットのポイントは、頭の中から必要そうなものをとにかくはき出してみる「発想」と、それを読みやすい順序に過不足無く並べる「整想」と、実際のアウトプットである「成果物」の3つの段階を意識してみよう、ということだった。その過程をインプットと同じように、3ステップの「ケーキのたとえ」を踏まえつつ確認してみよう。
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【アウトプットの手順】
4)オーダーをみて自分が作れるケーキのうち、どの種類のどの部分を使うか考える←手持ちの素材を棚卸し(発想)
5)どこを切り出すか考える←問いに答えるためのアウトラインをつくる(整想)
6)お皿を用意して盛りつける←答案用紙に書く(成果物)

4)オーダーをみて考えて棚卸し(発想)

まず、定期試験の問題文やゼミの課題など、「オーダー」にあたるものをよく読んで、自分が持っている知識のなかで関係のありそうなものを引っ張り出してみよう。いくつかのケーキの作り方を知っているけれども、問題文がそのものずばりを聞いてくるとは限らない。「焼き菓子」にもいろいろあるし、「コーヒーによく合う大人向け」って何だ?と考えてみるのも、ここで必要な作業になる。「コーヒーによく合う大人向けとは、味のしっかりとしたケーキだ、ならば自分の作れるものでいうと・・・」というように、解釈が必要になることもある。

5)どこを切り出すかを考えアウトラインを作る(整想)

「発想」段階だと、「なんとなく使えそうなもの」がたくさん並んでいるだけである。そのうち、必ず使わなければいけないものは何か、どの順番で書けばよいのかなどを考えながら並び替えていく。この「整想」は、選んだケーキのどこを切り取ろうか、と考えることに似ている。せっかくいいケーキを選んでも、切り取り方が雑で、オーダーに合わないサイズや形になってしまっては困る。そうならないように、この問題やこの課題ではどのような範囲でどの順序で答えればよいのかを、成果物を作り出す前に大枠だけでも考えておくと良いのである。

6)「答案用紙」というお皿を用意してきれいに盛り付ける(成果物)

「発想」段階できちんと述べるべきことを全て書き出して、「整想」段階でそれを過不足無く読みやすいように並べ替えたら、あとは答案に仕上げるだけである。とはいえ、どんなにきれいに構想を練っても、最後はその通りにお皿に盛り付けられなければ意味が無い。時間内にここまでたどり着けるよう、ペース配分も考えながら行わなければならない。

アウトプットの手順がこなせるインプットになっているか?

アウトプットをやってみると、インプット段階での漏れや失敗に気がつくことが多いだろう。わかったつもりになっていたのに、いざ「発想」をしてみようとすると、どうしても定義がわからない単語があったり、アウトラインを組んでみようと思っても、思いついた用語がどのような相互関係にあるのかについて忘れてしまっていたり。多くの場合、インプットの方法を見直せば、もっと良くなることだろう。

筆者の場合はどうしたか

ちょうど10年前の夏休み、当時学部3年生だった私は9月上旬からの夏学期定期試験前に頭を抱えていた。どうすればちゃんとした答案が書けるインプットができるようになるだろうか?そのとき考えたことを思い出しながら、自分なりのインプット方法を見つける手順を示すので、皆さんにも参考にしていただきたい。

必要なこと

まず、長文記述式試験を解くために必要な「インプット」とは何かを考えた。学部2年生冬学期の試験では、ある単元をまるっと落としてしまって、刑法総論で可をとってしまった。そこで、漏れがないインプット法を考えなければならない。
また、実際に答案に書いてみるにはある程度頭に定着していなければならないので、相互関係も含めて用語をちゃんと覚えられるようにしなければ、とも考えた。

得意なやり方を考える

勉強方法について、万人にぴったりくる「正解」はなかなかない。「人生で一番勉強したのは高校3年生の夏だったなあ」と振り返った私は、その頃うまくいっていたやり方から考えてみた。

高校までに上手くいったやり方

かつて私は、白地図を用意して、そこに今まで教科書や問題集で得た知識をカラーペンを駆使して全部書き込んでいくという「自作白地図ノート」を作ることをよくやっていて、これで地理や公民が得意になったという経緯があった。そこで高校3年生の受験勉強においては、世界史についても白地図(50年ごと)と年表を作って、同じように勉強していった。どうやら、私は自分が後から見返すことができるような資料を自分の手を動かして作ろうとすると、頭に定着するんだということがわかった。実際、世界史の長文筆記問題は法学部の長文記述問題によく似ているし、おそらくは似たようなやり方でうまくいくだろうと考えた。

かけられる時間はどこまでか

しかし、高校3年生のときのように、試験科目すべてについて自作のノートを作っていたのでは、2週間後の試験には絶対に間に合わない。法学部3年夏学期の試験科目は、憲法(統治)、刑法(各論)、民法不法行為法+債権各論)、会社法行政法1、国際政治・・・・・・。これらについて、インプットもアウトプット練習もこなさなければならないのだ。

たどり着いた勉強法

そこでたどり着いた勉強法は、以下の通りである。

1)目次・太字・キーワードを中心に読む
2)3色ボールペンでインプット
3)手持ち資料をまとめて「自分用のシケプリ」を作る
4)予想問題を作って解いてみる

このうち、1)と2)について、「ぱうぜの3色ボールペン」と名付けてご紹介しよう。

もともと得意だった方法の長所と短所

もともとやっていた「カラーペンでの白地図作成」では、農業は緑、工業はオレンジなど、色に意味を持たせていた。こうしておくと、文字を書くときにはそれがどの文脈の言葉なのかを確認してから書き込むことになるし、「全ての地域について農業だけ確認する」というときには緑の文字だけを読めばよいので、見返すときにも覚えやすかった。
他方、使った色が7色を超えていた時期もあり、そうなるとペンを持ち歩くだけでも一苦労。通学中の電車の中では資料が作れないという弱点もあった。また、ペンを持ち替えている時間も馬鹿にならず、丁寧な覚え方ではあるものの、とにかく時間がかかる方法だった。

3色ボールペンでやってみよう

自分が記憶するためには「色に意味を持たせる」こと、「自分の手を使って書き込むこと」がしっくりくるという長所は残しつつ、「多色過ぎると持ち歩きに不便で時間がかかる」ということを鑑みて、ノック式で切り替えができる3色ボールペンを使うことにした。
また、必ずしも一から全て自分でつくる必要はないのだということにも気がついた。既存のテキストに、用語を目立たせたり区別しやすいように、色の意味を考えながら書き込むことができれば、覚えやすくなるだろうと考えた。

「虫の目」1周目(教科書を二度目に読むとき)でやってみよう

試験まで時間がないので、使う資料は手持ちの教科書である。これをただ読むだけだと、初読である「鳥の目」1周目としては良くても、それ以降のインプットには向かないのではないか、と当時の私は考えた。なぜなら、二度目に読むときは、どうも新鮮味が薄れてしまって、なんとなく読み飛ばしてしまう傾向があったからである。大事な言葉にはきちんとマークをつけておきたい。とはいえ、どの用語が大事かがわかるのは、ある程度勉強が進んでからである。つまり、教科書に書き込みをするタイミングは、インプットの3ステップでいう2つめ前半=「虫の目」1周目のときだと考えた。

色づけのルール

試行錯誤の結果、以下のルールで3色ボールペンを使うこととした。

1)用語を覚える

大事な用語が出てきたら、青、赤、黒を使い分け、楕円形や長方形で囲む。
用語の定義に当たる内容は、同じ色で下線を引く。
階層構造がある場合は、色や囲む図形を統一することで、どのレベルが共通しているのかがわかるようにする。

2)論点を覚える

問題点や論点が出てきたら、赤字で「Pを○で囲んだマーク(マルPマーク)」をつけて、論点だとわかるようにする。
通説的な見解や最高裁判例は黒、
それに対する反対説は赤、
自分が取ろうと思っている見解は青で下線を引く。
特に、それぞれの対立点になっているところは強調する。

あとで見返すときに役立った

このようなルールで一通り全ての教科書をもう一度精読してみたところ、覚えやすくなった。それは、なんとなく読んでいてもこれらのルールを守った色づけは出来ないので、何度も何度も読み返すのと同じような注意深さが身についたからである。
そればかりか、あとで読み返すときにも役に立った。一度決めたルールに沿っているので、1週間くらいたってから読み返しても、その部分の構造がつかみやすくなっているからである。

試しにやってみよう

文字ばかりで説明してもわかりにくいので、実際にやってみた例を示したい。以下、教科書のような文体を用いて、私の担当している「行政法1」の初回講義で説明する内容を文章に書き起こしてみた*4。これを素材として実際に3色ボールペンで書き込んでみたものを一週間後に更新される次回にてアップするので、読者の皆さんもちょっとやってみていただきたい。

「ぱうぜの3色ボールペン」実践用テキスト

2 行政法の体系
 それでは、次に行政法の見取り図を皆さんにご案内したい。行政法は大きく分けて、行政法総論と行政法各論という部門に分かれる。行政法各論とは、個別の課題ごとの法制度を扱うものであり、「個別法」や「参照領域」ともいわれる。具体的には、租税法、社会保障法、都市法、警察法、環境法などがある。そのうちのいくつかは「行政法」という科目からは独立し、別の科目として講義されている。これに対して、行政法各論での各分野における法制度の共通要素をまとめて議論するのが行政法総論、という関係になっている。大学で「行政法」と名付けられた科目では、主として行政法総論の枠組みに沿って教えながら、行政法各論、すなわち個別法の仕組みについても少しずつ触れることになる。
 行政法総論は大きく分けて、行政組織法、行政作用法、行政救済法に分かれる。行政組織法は、誰が行政を行うか、行う場合の役割分担はどうあるべきか、ということについて検討する。行政作用法は、行政としてどのようなことをどのように行うかについて検討する。行政法の基礎概念や、行為形式論、実効性確保など、「行政法」という科目で学ぶ中心的な部分である(そのため、行政作用法をさして狭義の「行政法総論」ということもある)。行政救済法は、行政活動に伴ってなんらかの被害が出た場合、その救済を求めるにはどうすればよいのかについて検討する。お金で解決する場合の国家補償と、行政活動によって変化した権利義務等の法状態を裁判所等によって変更してもらうという解決を求める行政争訟がある。
 なお、行政作用法の中で、「情報公開・個人情報保護」という項目をどこに位置づけて教えるべきかについては、教科書等により扱いが異なっている。なぜなら、この項目に深く関係する情報公開法個人情報保護法が国の法律として成立したのは1990年代以降であり、比較的新しい項目に属するからである。初版が1976年刊行である原田尚彦『行政法要論』においては、情報公開・個人情報保護は「行政調査」とともに「行政の予備活動」という位置づけで、行為形式論と実効性確保の後に論じられている。他方、2007年に初版が刊行された入門書である石川敏行ほか『はじめての行政法有斐閣アルマ)』では、透明・公正な行政過程を「行政作用の一般理論」の一つとして位置づけて、さまざまなコントロールの方法として情報公開制度と個人情報保護制度を公文書管理制度と併せて論じているため、比較的前の方で、「行政の行為形式論」より前に取り上げている。
 筆者は、情報公開・個人情報保護は行政の予備活動という以上の意味を持ち、行政の透明性確保の点から、民主的参加の議論と深く結びついていると考えている。他方、行為形式論における分類など、ある程度行政法について知見が深まってからでないと、情報法制の必要性は理解できないおそれがある。そこで、「参加と情報」という項目を新設し、基礎概念、行為形式論、実効性確保の議論が終わった後に、公文書管理法制や住民参加制度、住民訴訟制度等と併せて論じることとする。

第5回【前編】のまとめ

  1. アウトプットが出来るようになるインプット法を考えよう
  2. どのような要素が必要かを6ステップを踏まえて考えよう
  3. 過去の自分がやっていてうまくいったやり方を応用できないか試してみよう

*1:夏休み後半である9月に更新する第6回は、定期試験の話題からは離れるつもりである。

*2:以下の記載は横田明美「法学部って何だっけ?-法政経学部の教員から」法学セミナー725号(2015年)39-42頁では紙幅の関係から述べることが出来なかった部分である。

*3:しばしば、「教科書を予習するにしても、どこが大事そうなところかがよくわからない」という質問を受けることがある。その場合は、教科書ではなく入門書を選んで、とにかく最後まで読み進めてみよう。

*4:初学者向けを想定しているので、やや説明が足りない点もある。この点既に行政法を学んでいる方や行政法の研究者からみると極めて物足りないかもしれないが、お許しいただきたい。

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