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第4回後編:「発想」「整想」「成果物」の3ステップ~アウトプットの心がけ

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長文記述式問題でありがちな失敗

第4回【前編】は、「書き方がわからない」という壁に気がついてもらうために、いろいろな「アウトプットの場面」を紹介した。予想問題をつくってみたりして、一行問題を実際にやってみた、という方はいらっしゃるだろうか?……そんな時間はないかもしれないけれども、いまごろ、多くの学部学生や法科大学院生には定期試験というアウトプットの時間がやってきているに違いない。そこで今回は、そのような状況の中でどこまで役に立つかはわからないけれども、今後のためにも知っておくとよい心構えとして、アウトプットにも手順があるのだという話をすることにしたい。ただ、本気で語るとどうしても長くなってしまうので、詳細は次回以降に譲り、今回は予告編にとどまることをお許しいただきたい。

私がはじめて一行問題を解こうとしてみた頃を思い出すと、「講義で聴いた話をそのまま書き出せばよいのだ」と考えて、いきなり答案用紙に書き始めていた。しかし、これは「ケーキの作り方しか知らない人がなんとなくカットケーキを出そうとする状態」に近い。できあがった答案を、冷静になってあとで思い返してみる*1と、以下のような欠点があった。

  • なんとなくの流れで書いている
  • 問いに対して答えることが一部分でしか出来ていない
  • 段落と段落の間がつながっていない
  • 答案の冒頭で考えていた方向と違う方向に結論が向かってしまっている
  • 時間切れになって、答案が未完結のまま提出してしまっている(中途答案)
  • ある部分での記述はとても細かいが、肝心の論点にはあっさりとした記述しかない

教員になって採点をする立場になった今も、長文記述式問題に慣れていない学生の答案には同じような欠点があると感じている。大きくまとめると、これらの欠点はふたつの問題に行き着く。ひとつは、「思いつく順序と読みやすい順序が違う」ことに気がついていないこと、もうひとつは「問いに答える」ことから離れてしまっていることである。

思いつく順序と読みやすい順序は違う

一行問題で出てきたキーワードをもとにして、講義や教科書の記述を思い出してみよう。Aという問題も関係ありそうだし、Bという問題もありそうだ。このように考えているとき、あなたの頭の中では一種の連想ゲームが起きている。勉強すればするほど、キーワードや論点のつながりが見えてくる。それはとても良いことなのだけれども、その「つながり」を頭から出して書き連ねても、結果としてあまりスムースにつながっていないということがありうる。もちろん、自分が連想した以上はどこかではつながっているのだけれども、その順番をそのまま書いてしまうと、内容が飛び飛びのものになってしまう。
例として、第4回【前編】で取り上げた、一行問題をもう一度見てみよう。

行政上の強制執行の意義を述べた上で、行政上の強制執行の種類を4つあげ、それぞれ説明せよ。*2

この問題に答えようとしたときに、このような連想があなたの頭に浮かぶかもしれない。

「ええと、行政上の強制執行って義務履行確保のことだよな、行政罰とは違うんだよね……ああ、そういや執行罰っていう紛らわしいのがあったな。たしか間接強制ともいうんだっけ。あれ、行政罰と執行罰の違いってなんだっけ、制裁かそうでないか、だっけ?」

この連想の内容それ自体は間違ってはいない。しかし、「義務履行確保」は問題前半の「行政上の強制執行の意義」というところで記述すべきキーワードであるけれども、「執行罰(間接強制)」は問題後半の「4種類」のうちのひとつである。さらに後から思い出した「制裁との区別」は問題前半で述べるべきことだろう(詳しくは後掲のアウトラインを参照)。この連想の順序で答案を書き出してしまうと、読み手からみれば、どんな順序でどこに連れて行かれるのかわからない答案になってしまうのである。

問いに答えることが出来ていない

インプットをまんべんなくこなすことができずムラができてしまった人だけでなく、実はインプットだけを頑張りすぎた人も引っかかる罠である。
まず、インプットにムラができてしまった学生は、ヤマをはってくることが多い。「先生は講義でAという箇所を重点的にやっていたから、なんとかここだけは覚えていこう」と。実際、試験でAに関連する問題が出たので喜んで答えてみると、実はAはそこまで重要な扱いを受けておらず、関連するBについて主として聞いている問題だということがある。これは、ヤマを張った内容で何とか答えようとするあまり、問いに答えることができていないのである。
同じような思い込みは、実は頑張った学生にも生じる。より正確に言えば、インプットだけを頑張りすぎた学生にも生じる。試験でAに関連する問題が出て、Aについての教科書的な内容についての記述はできた。しかし、実際の答案ではAだけでなくそれを問われた状況にどのように適用するのか、いわゆる「当てはめ」部分も聞いているということが多い。そちらの配点のほうがむしろ多いのに、時間切れになってしまったり、重要性に気がつかずにあっさりと書いてしまう。アウトプットの練習を欠いていたために、自分が自信のあるインプット内容をはき出すことだけに注力した結果、問いの全てに答えることができていないのである。
第4回【前編】で紹介した事例問題に即して言えば、ある学生は「法律の留保」やそこで論じるべき「侵害留保説」についての教科書的な内容はきちんと丁寧に答えることができた。しかし、おそらくはそこで時間切れになってしまったのだろう。この事例で問題になっている中間報告がどのような意味で法律の留保原則と関係があるのかについては、単純に「公表については法律上の規定がないから法律の留保原則に反している」などと、極めて単純なことしか書けなかった。本来であれば、公表という「国民へのお知らせ」が侵害留保説でいう「侵害」といえるだけの実質を備えているか否かについて、Xが受けた被害についての評価が必要となるにも関わらず、である。
このように、ヤマを張ってきた学生も、インプットだけを頑張った学生も、目の前の問いに答えるという意味では中途半端な結果になってしまうのである。

長文記述式は「即興レポート」

実はこれらの失敗は、この試験形式が「即興レポート」だと捉え直すと、なぜそんな失敗をしてしまうのか、どうしたら解決出来るのかを理解しやすい。第4回【前編】で、試験問題だけでなくゼミの報告やレポートにも触れたのは、試験問題に答えるのもゼミで報告するのも本質的な部分は共通しているということが言いたかったからである。
レポート課題であれば、皆さんは課題について調べ物をして、どのような内容を書くべきか考えて、書く順序を考えて……ちょっと書いてみては足りない部分があることがわかって、改めて調べ物をして……というように、だいたい1ヶ月くらいかけて頑張るだろう。それが、試験では決められた時間に、課題をその場で与えられて、長い文章を書くというわけである。
学生と話をしていると、レポート課題と定期試験はまったく別物だと考えているように見える。しかし、決められた時間のなかで、一定の内容を含むある程度長い文章を書くという意味では、長文記述式問題もレポートも同じことなのである。ただ、試験では問いが与えられており、それに合わせた採点基準があるので、まったく見当違いのことを書いてはいけない、というだけである。

発想→整想→成果物の3つのステップ

すでに「ぱうぜセンセのコメントボックス」では、レポートを書く際には「発想→整想→成果物」という3つのステップを意識した方がよいことを紹介した。
発想→「整想」→成果物!伝わるように産み出すための3つのステップ
大学1年生ゼミのレポート課題講評です


この内容と一部重なるが、「即興レポート」である長文記述式の試験問題を解くにあたって、どのような手順を踏むべきなのかを考えていきたい。

発想~手持ちの素材を棚卸し

まず問題文を見たら、この問題を解くための素材としてどんなものがあるのかを、問題文中の記述と自分の記憶の中から棚卸しする。問題文は何を聞こうとしているのか、何に答えればこの問いに答えたことになるのかを意識して、対応するキーワードや言葉を書き連ねていくのである。

整想~アウトラインをつくる

次に、発想で出てきた素材をどのような順番で書き連ねていけば「読み手にとって伝わりやすい」順序になるのかを考えていく。これを私は、倉下忠憲『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』(技術評論社 、2012年)第4章の記述から、「整想」と呼んでいる。
Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術:書籍案内|技術評論社
同書の記述では、「生まれたアイデアを伝わりやすいかたちに整理する」ことを「整想」と呼んでいる(特に164頁)。「即興レポート」である長文記述式問題も、いきなり書き始めるのではなく、どうしたら自分の解答が伝わりやすいかたちで書くことができるかを考えておくと良い。
別の言い方をすれば、最初に見出しだけでもざっくりと考える。この見出しだけの目次のようなものを、アウトラインという。レポート作成のときに聞いたことがあるかもしれない(まったく聞いたことがない人は、上記「ぱうぜセンセのコメントボックス」リンク先を参照)。この長い文章がどの方向にいくべきなのか、足がかりだけでもつくっておくのである。
上述の一行問題は問題文そのものがアウトラインを示唆している。問題文と連想とを組み合わせると、以下のようなアウトラインが浮かんでくることだろう。

1.はじめに
2.行政上の強制執行の意義
 定義
 制裁との違い
3.行政上の強制執行の種類
 種類
  それぞれの内容
(1)間接強制(執行罰)
(2)
(3)
(4)

こうしてみると、さきほどの連想には、強制執行の意義(問題前半)についてはともかくとして、その種類を4つ聞かれているにもかかわらず、まだ残り3つが出てきていないことがわかる。このように、アウトラインを作りながら足りないものをさらに思い出していくことも大切である。

成果物~実際に長文の記述を書く

「発想」で問いに対してもれなく答えるための素材を棚卸しし、「整想」でアウトラインをつくったら、実際に書き始めてみよう。そうすれば、どこに向かうのかわからなくなったりする心配はなくなる。
もし心配であれば、レポートでいう「はじめに」と同じように、どのような内容をどのような順序で書くのかを最初の段落で示してみるとよい。

ある程度の慣れが必要

この手順を意識するだけで、長文記述式問題の「よくある失敗」のほとんどは回避できるだろう。しかし、これまた実際にやってみると、ふたつ問題が生じる。
ひとつは、時間切れになりやすいということ。「発想」と「整想」の段階では、答案用紙はまだ白紙である(問題用紙の余白などに書くことが多い)。このまま時間切れになると、せっかく考えたことが反映されない答案になってしまう。そこで、目安としては、「発想」と「整想」までを試験時間の1/3で行い、その時点がきたらもう書き始めてしまおう。
もうひとつは、「発想」で棚卸ししようとしても、なかなか覚えたことが出てこない、ということ。もしこの点がうまくいかないのであれば、インプットのやり方を見直す必要がある。せめて、「試験前には試験のときに思い出せるような形での暗記をする」*3というように、意識を変える必要がある。アウトプットの練習をするうちに、インプット不足が明らかになる。
この記事が公開される7月24日は、私が勤務する千葉大学と同じスケジュールの大学であればまさに試験直前のはず(すでに定期試験が終わってしまっている大学の皆さん、ごめんなさい)。アウトプットからのインプットはまだギリギリ間に合うと思うので、やってみてほしい。

次回予告

第3回の「インプットの心がけ」と第4回の「アウトプットの心がけ」を踏まえて、ようやく学び方について考える土台ができた。大学は夏休みに入るけれども、より広い意味での学びのサイクルをどのように回していけばよいのかという点については、比較的時間のとれる時期に手を付けた方が良いだろう。そこで、第5回は、長文を書くことができるようになるまでのサイクルを、いままでの復習をこめて6つのステップにまとめ、具体的な法学の素材を用いながら、どのように進めていけばよいのかを検討する。
6つのステップについて、パティシエのたとえも使いながら概要を述べると以下のようになる。
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【インプットの手順】
1)スポンジを焼く←全体像をなんとなくつかむ(鳥の目1周目)
2)サンドして薄塗りをする←ひとつひとつの素材を扱う(虫の目1周目+鳥の目2周目)
3)デコレーションする(虫の目2周目+鳥の目3周目)

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【アウトプットの手順】
4)オーダーをみて自分が作れるケーキのうち、どの種類のどの部分を使うか考える←手持ちの素材を棚卸し(発想)
5)どこを切り出すか考える←問いに答えるためのアウトラインをつくる(整想)
6)お皿を用意して盛りつける←答案用紙に書く(成果物)

第4回【後編】のまとめ

  1. 思いつく順序と読みやすい順序の違いに気をつけて目の前の問いに答えよう
  2. 思いつくだけ書いてみる「発想」と、読みやすい順序にする「整想」を、書き始める前に準備する
  3. アウトプットの練習をしてうまくいかないときは、インプットのやり方も見直してみる

*1:私は法科大学院入試対策として、学部時代の定期試験問題を解く自主ゼミを行っていた。学部4年生になってから学部2年時の頃の試験問題をもう一度書いてみると本文中で述べたことと同じようなことに気がつくことができるので、これから法科大学院を受験する皆さんはぜひやってみていただきたい。

*2:平成26年度の東京都1類B(一般方式)の専門科目(行政(一般方式)東京都ウェブサイト  http://www.saiyou2.metro.tokyo.jp/pc/selection/26/section-1b1-answer.htmlおよび同リンク先 http://www.saiyou.metro.tokyo.jp/saiyou2015/26mondai/1-b/senmon/26gyousei.pdf)の第2問から抜粋した。太字への加工は引用者による。

*3:具体的なやり方の例は次回以降述べるが、試験前の方にむけて一言だけ。この連載でお話できるのはあくまで例であって、いずれにしても自分なりの、あなた自身の方法を見つけるしかない。試験直前という方は、「試験の時に思い出せるか?」と改めて自分に問うてみて、足りないと思うならばそれを埋めるようなインプットを改めてやってみてほしい。

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