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第4回前編:やってみてはじめて気づく「わからなさ」~アウトプットの心がけ

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習ったとおりにやろうとしても

「講義で先生が説明したことは、なんとかわかったぞ、あとは試験を受けるのみだ」
第3回【前編】と【後編】では、一つ一つの項目をじっくり学ぶ「虫の目」と、科目全体をみて項目のつながりを意識する「鳥の目」との両方を使いながらインプットをしよう、とお伝えした。両方の視点を身につけた読者は、ケーキ職人にたとえると、「いちごのショートケーキを1ホール作るためのレシピを身につけて覚えた」というような状態である。
しかし、定期試験の当日、試験問題を見ると呆然としてしまう。
「え、『ケーキを日曜日の午後4時に女性客一人に提供するにはどのようにすればよいか、基本的な方針を述べながら答えなさい』って?」
ケーキの作り方は体系的に覚えたけれども、どうやって切り取るか、盛りつけるかについてはまったく教わっていない。どうしたら良いのだろう?

はじめから妙なたとえ話で恐縮だが、私自身が法学部での学習で恐怖のどん底にたたき落とされた思い出を、法学をまだ学んでいない方にもわかるようにたとえてみた。インプットをするための心がけと、アウトプットをするための心がけとの間には、大きな開きがある。今回は、なぜアウトプットのためにわざわざ練習が必要なのか、実践練習の必要性についてお話したい。そのためにまず、法学部生が「アウトプット」として体験することになる、大教室講義の定期試験と少人数ゼミでの報告について、それらがどんなものであるのかを説明しよう。

法学部の試験ってどんなもの?

法学部の試験問題を見たことがない人にとっては、「定期試験問題って習った知識を覚えているかどうかを確認するものなのでは?」と思うかもしれない。しかし、実際には、長文を書く記述式の回答を求める問題が出題されることが多い。インターネット上に公式に公開されている問題として、その形式に近いものを例示しながら、お答えしよう。

1)一行問題

ある法的課題について説明をさせるという形式が、いわゆる「一行問題」である。法科大学院制度および新司法試験が始まる前の旧司法試験論文式問題ではこちらの形式が多く出された。現在だと、地方公務員の試験問題においてこの形式の問題が出されることがある。たとえば、平成26年度の東京都1類B(一般方式)の専門科目(行政(一般方式))では、他分野(政治学、社会学等)を含む10題から3題を選んで解答する方式で、以下の3つの問題が出されている*1

1.憲法 私人間における人権の保障に関して、私人間への適用を認める2つの考え方とそれぞれの問題点について、三菱樹脂事件及び日産自動車事件の最高裁判決に言及して説明せよ。

2.行政法 行政上の強制執行の意義を述べた上で、行政上の強制執行の種類を4つあげ、それぞれ説明せよ。

3.民法 債権者代位権の意義、要件、客体、行使及び効果について説明せよ。

2)事例問題

他方、長文を記述する問題には、事例に対する解答者の見解を問う「事例問題」もある。ひとつ例を挙げてみよう。第1回【前編】と【後編】で話題にした昨年度私が担当した行政法1の中間試験問題は、一部省略したかたちで述べると、以下のようになる。

大阪府S市の市立小学校で7月12日、O-157腸管出血性大腸菌)による集団食中毒事件が発生した。12日提供の給食の献立は「豚丼、かいわれ大根とにんじんのサラダ、牛乳」であった。厚生労働省は調査をしたが、原因食材をなかなか特定できないでいた。そんな中、8月7日に厚生労働大臣Aは「貝割れ大根については、原因食材とは断定できないが、その可能性も否定できない」という中間報告を発表した。
 この中間報告を受けて街は大騒ぎになった。連日ニュースで貝割れ大根の危険性が喧伝され、全国の小売店の店頭からは貝割れ大根が撤去され、出荷停止に追い込まれた貝割れ大根生産者の売り上げは激減した。そのかいがあってか、以降かいわれ大根が原因と疑われる食中毒は発生しなくなった。他方、当初敬遠されていた豚肉や、にんじんには疑いがないことがわかり、落ち込みがちであった売り上げは元に戻った。千葉市のかいわれ業者Xは、国の中間発表により営業妨害を受けたので、国家賠償訴訟を提起したいと考えている。
~実際の問題文にはここに法律の留保をめぐるK弁護士とF修習生の(仮想)会話と関係条文をヒントとして出したが、ここでは省略する~
(1)法律の留保の原則とは何か。以下の言葉を用い、さらに足りない言葉も補いながら、後述(2)、(3)の解答に必要な範囲でその意義と学問上の位置づけを説明せよ。
 【組織規範 法律による行政の原理 法規 全部留保説】

(2)Xの立場にたって、「国の中間報告は法律の留保の原則との関係で違法である」と主張するとしたら、どのような主張をすることができるかを検討せよ。

(3)Xから提訴された被告国(Y)の立場にたって、「本件公表は法律の留保の原則との関係で適法である」と反論するとしたら、どのような主張をすることができるかを検討せよ。

既に第1回【後編】で述べたとおり、この事例問題は実際の事件をもとにしたものである。(1)の部分は実は一行問題であり*2、(2)と(3)が事例問題である。
実は、事例問題の作り方には大きく分けて二つの方法がある。ひとつは、いわゆる「教室設例」というもので、実際の事件からというよりも、法律の要件と効果が論じやすいように、登場人物をAやB、あるいはXとYなどのアルファベットで表して、場合分けなどもしながら、よく論じられる論点を過不足無く答えられるよう、事例部分について5~10行程度で作られる問題である。もうひとつの方法は、実際の裁判例を元に作られているものである。私が中間試験で出したような、非常に長く、具体的な事情が織り込まれている問題はこのパターンであることが多い。個人的な体感では、行政法の事例問題はこのパターンが多いようである。

答え方がわからない

それでは、法学部生はこのような定期試験問題をみて、どのように考えるだろうか。・・・実は、法学部生が大教室講義で、「答案の作り方」について講義を受ける機会はまずないと言ってよい。たしかに、「憲法の私人間適用」とか、「行政上の強制執行」とか、「債権者代位権」や「法律の留保」が意味する内容については、講義でも必ず取り上げている。しかし、それを論じるための文章をどのように紡いでいけばよいのかについては、講義だけでは身につかないのである。よく学生から「答え方がわかりません」という質問を受けることがある。そんな学生に「憲法の私人間適用とは何ですか」と聞けば、その場ですぐに答えられないまでも、教科書のどこに書いてあるのかは覚えているし、だいたいの内容は答えることができる。しかし、実際の答案にしてみようとすると、手が止まってしまうのである。

実践練習という試行錯誤の時間は自分で作るしかない

ここに、第3回【後編】のサイクルで紹介した「実践練習」という時間が必要になる理由がある。大教室講義の予復習だけを繰り返したのみで試験を受けてしまうと、「答え方がわからない」「書き方がわからない」という壁が潜んでいることに気がつかないままで試験会場に来てしまうことになるからである。
これは何かの本を読めば簡単に身につくというものでもない。実際に手を動かしてみて、なんとなくわかっていくものなのである。なお、私が大教室講義で教える学生は学部2年生以上が対象だが、法経学部・法政経学部という学部の性格もあって、法学系の学生ばかりでなく、政策系の学生や、経済系の学生もいる。いままでの法経学部受講生の動向を見る限り、法学系の学生のほうが成績がよいのか、というとそんなことはない。しかし、差があるとすれば、講義受講時にどこまで「法学部っぽい試験」を受けた経験があるかで左右されているようだ。政策系・経済系の学生でも、試験で書くことと普段の講義との差に気がついている学生は戸惑わずに答案を書いている。他方、法学系の学生でも、試験でどうしたらいいかわからない学生は、見当違いの答案を書いてしまうことがある。なお、私自身も2年生までは「見当違い」の答案を書いていたのだな、と今振り返るとわかり、頭を抱えてしまった。
どうして見当違いな答案を書いてしまうかといえば、まず「講義の他に実践練習が必要で、そのための時間は自分で確保するしかない」ということに気がつかなかったからである。
それを「試験を受けてから」気がつくのでは遅いので、力試しも兼ねて、上述のような問題をみていただいたのである。

少人数ゼミってどんなもの?

それでは、「少人数ゼミ」ではどのようなことをしているのだろうか。法学部のゼミ形式授業での作法を網羅的にわかりやすくそして具体的に提示した本として、以下の本がある。
田髙寛貴・原田昌和・秋山靖浩『リーガル・リサーチ&リポート』(有斐閣、2015年)
リーガル・リサーチ&リポート | 有斐閣
同書第2章では、よくあるゼミ形式として、裁判例を素材とする「判例研究」、法律学に関する特定のテーマを素材とする「テーマ研究」、架空の事例問題を素材とする「事例演習」の3つが紹介され、どのような内容が行われているのかを、著者らの専門である民法を素材に解説されている。法学部でのゼミ形式授業は、おおむねこの3つのどれかに当てはまるものが多いだろう*3
詳しい内容は今回は取り上げないが、3つの形式に共通していることがある。それは、報告者を決めて皆でディスカッションをするという流れになっていることである。報告者はリサーチをして、レジュメを作成し、口頭報告をする。そして、その報告で得た知見をもとに、異なる意見もぶつけながら、議論をする。さらに、その議論を踏まえた上で、報告内容をもとにしたレポート課題に発展することもある。

はじめてのゼミレジュメ作成でのとまどい

はじめてゼミでの報告をしようとすると、どのようにレジュメを作ればよいのかがわからない。ゼミで設定された課題から、何を調べればよいのか、どのように調べればよいのかというリサーチに関わる疑問はもちろんのこと、何をどこまでどのような順序で書けば適切な報告になるのかがまったくわからないのである。
定期試験と同様、ここでもアウトプットの仕方という問題が潜んでいて、それは実際に手を動かしてみないとなかなか気がつかないものなのである。
ゼミの醍醐味はここにある。講義で知識の見取り図を作り、自分で本を読んで知識を詰め込んでも、どのように使うのかがわからないとなかなか定着しないし、「使える」知識とならない。レジュメを作って報告して、他の学生や先生に疑問をぶつけてもらうと、「頑張って調べたけどまだよく分かっていなかった」ことがわかったり、「ここから先は自分の調べが足りないというよりも、まだ未解決なんだな」ということが分かったりするようになっていく。

「わからない」ということはやってみないとわからない

ここまで述べてきたとおり、法学学習におけるアウトプットは、最初はどうしたらよいのかがわからないものなのである。きちんとインプットしたはずなのに、なぜアウトプットができないのか。それは、素材が多数あっても、その並べ方や切り取り方がわからないからである。そして、それを学ぶ場所は、自分自身での試行錯誤を経るしか方法がない。
しかし、一番恐ろしいのは、「アウトプットをしてみようとしないと、何が足りないのかもわからない」ということである。今回、えんえんと「アウトプットの場面」を紹介したのは、そのことにまず気づいてほしいからである。もし、あなたが「自分の実力をはかるためにやるべきだから、過去問は大事にとっておこう」と考える人であるならば、その考え方は捨ててほしい。
もし手元にあなたが受けることになる試験の過去問があるのなら、解けないことはわかりきっていたとしても、今すぐアタックしてみよう。インプットのときに使った教科書やレジュメなど、何を見てもよいので、その問題を解こうとしてみてほしい。過去問を手に入れることができないのであれば、上で紹介したように、各種試験の過去問や演習問題でもかまわない。単に解説を読むだけで済ませるのではなく、一度自分の手で書いてみることをおすすめする。

予想試験問題のススメ

過去問が手元にない人は、ぜひ、今回紹介した一行問題を解いてみてほしい。ただ、憲法の人権部分、民法の債権総論、行政法総論を未修の人には解けないと思うので、その場合は以下のフォーマットに適宜キーワードを代入して、仮想試験問題として解いてみて欲しい。予想試験問題を作って自分や友達と解いてみるというのは、ものすごくハードだけど「効く」勉強法である。
AやBやCは、あなたの感覚でかまわないので、その講義の試験で出そうなキーワードを入れてみよう。試験に出そうなキーワードを講義ノートからまんべんなく探すことが、試験に向けた実践練習の第一歩である。

1)【 A 】に関して、【 B 】についての(複数の)考え方とそれぞれの問題点について、【 C 】事件の最高裁判決に言及して説明せよ。

2)【 A 】の意義を述べた上で、【 A 】の種類を【 】つあげ、それぞれ説明せよ。

3)【 A 】の意義、要件、客体、行使及び効果について説明せよ。

「オーダーに対してどのように切り取るか戸惑うパティシエ」にならないように、自分で自分に仮オーダーを投げてみて欲しい。最初はうまくいかないだろうけれども、次回更新分を読むまでにやってみて、何が上手くいかなかったのか、気がついたことをメモしておこう。

次回予告

書き方がわからないのならば、テクニックを学ぶべきなのだろうか。いや、ちょっと待ってほしい。小手先のテクニックを身につける前に、「アウトプットするということ」そのものについて、もう少し掘り下げて考えてみよう。
次回第4回【後編】では、長文記述式問題に答えるときにも、ゼミレジュメを作るときにも共通すると私が考えている3つのステップについて解説する。

第4回【前編】のまとめ

  1. 試験の解答もゼミのレジュメも、書こうとしてみてはじめて「書き方がわからない」ことに気づく
  2. 実践練習をする時間は自分で作るべし
  3. 「過去問は実力がつくまで取っておこう」はもったいない、「予想問題」を作ってでもやってみよう

*1:東京都ウェブサイト  http://www.saiyou2.metro.tokyo.jp/pc/selection/26/section-1b1-answer.htmlおよび同リンク先 http://www.saiyou.metro.tokyo.jp/saiyou2015/26mondai/1-b/senmon/26gyousei.pdfから抜粋した。

*2:この問題にはトラップが仕掛けてあることについては第1回【前編】を参照。

*3:ほかの形式としては、外国語で書かれた文献を読む「外国法文献演習」や、ゲストスピーカーを招く演習などもある。外国法文献演習は法学研究を行う上で避けては通れないものであり、私自身も研究者を志してからは主としてこのタイプの演習をとっていた。研究者養成については本連載の後半で取り上げることにする。

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